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17.不信の種を育てて成果を待つ
咆哮を上げながら、ぐるりと旋回する。王都ではないが、大きな都だ。東の海へ向かった勇者を嘲笑うように、反対側で騒動を起こした。
都の周囲に発展した街を焼き払い、尻尾やかぎ爪で塀を壊す。逃げ回る人々を爪で引っ掛け、大きな建物の上に落とした。屋根を突き破る場合もあれば、塔や飾りに引っかかって止まる者もいる。暴れて爪から落下する者まで、様々な悲劇を巻き起こした。
ガブリエルに人の意識が集中する間に、人族に姿の近い種族が入り込む。逃げ惑う人族の間で口々に叫んだ。
「勇者は何をしているの!」
「あいつが魔族を刺激したんじゃないか?」
小さな疑惑の種は人の心に根を下ろし、やがて大きな花を咲かせる。最後に勇者一行の処刑という形で実をもたらすはずだ。セイレーンが伝えた禍歌により芽生えた不信感は、さらに加速した。
「そうだ、勇者が悪い」
「どこで何をしているんだ」
「こういう時こそ戦って、俺達を守るへきだろう!」
「あいつらの所為でドラゴンが攻撃してきんじゃないか?」
被害に遭ったのは勇者の所為だ。僅かな火の粉が、あっという間に大きな炎に成長する。すでに魔族は撤退しているのに、上空で囮になる黒竜を見上げて怨嗟の声を上げた。
「「この状況の原因は、勇者だ」」
最終的な結論はすべて、ここへ導かれた。集約された悪意は驚くほど膨らむ。ガブリエルの背に乗り、状況を確認していたバラムは首を傾げた。
「なぜこうまで誘導されるんだ? あいつらの頭は考えることをしないのか」
くくっと喉を震わせて笑い、ガブリエルは父から教わった人族の習性を口にした。
「人族は群れる。誰かに道を示され従い、うまくいって当たり前。もし失敗すれば、先頭を歩いた者を吊し上げてきた。だから成長しないらしい」
「……なるほど」
誰かから聞いた話と匂わせながら、ガブリエルは大きく旋回した。この街はこれで終わりだ。都を囲む街はあと三つ。一つを残して叩く予定だった。残すのは、魔王城があった北側のみ。それ以外の方角にある街は、焼き払う。
ぐるると喉を鳴らし、急下降した。怯える人々が見上げる先、神殿の高い塔がガブリエルの尻尾で破壊された。落ちる瓦礫から逃げる人族を見ることなく、黒竜は街を離れた。
青い空はまだ陽が高い。もう一つくらい、街を潰せるだろう。南にある街を襲い、明日は東の街を……最後に都の建物をいくつか壊すつもりだ。人族の被害など考慮する余地はない。奴らは野蛮で危険だ。女子どもを殺す人族に配慮する気はなかった。
「森人族に種を蒔かせろ」
「承知!」
バラムは遠吠えで作戦開始を告げる。その声は、魔族領の森で待機する種族まで届いた。森の木々と会話するほど親和性が高い彼らは、魔力を注いで森を広げる。やがて……すべてを飲み込むまで。
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