18.蛮行はやがて己に返る

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18.蛮行はやがて己に返る

 森人と呼ばれる種族は魔力は高いが、争うことを嫌う。美しい外見を持つが、穏やかで静かな暮らしを続けてきた。金や銀の長い髪を持ち、緑の瞳を持つ。髪を長く伸ばすのは、森の声を聴くため。  魔王を狙えるほど高い魔力を持つ者が生まれても、森を守って生きることを望んだ。長寿であるため物知りで、代々の魔王も森人達を頼っていた流れがある。そんな彼らは、森の奥深くで暮らしていた。  人族が森を焼き払い、傷付けて開拓する。森人にとっては意味のある木々の配置や岩の場所も、人族は配慮しなかった。心の拠り所である森を蔑ろにされ、森人は代表者を数人選んで話し合いに向かう。それが不幸の始まりだった。  人族は彼らの美しい外見に見惚れ、捕らえて貴族へ献上した。愛らしい声で鳴く小鳥のように、愛玩用として。ただペットのように飼われるだけでも屈辱だが、人族は性的な暴力を加えた。  森人の女性は身籠り、世を儚んだ。男達も暴力の対象から逃れることは出来ず、あまりの怒りに魔力暴走を起こして破滅する。それからだ。森人族を捕まえて、売り捌く奴隷商売が人族に蔓延った。外見の美しさから吸血種が同様の扱いを受け、珍しさから腕が翼の翼手族や獣人族も狙われる。  人族の王に抗議しても、知らぬ存ぜぬで動かなかった。ならば、これもありだろう? ガブリエルはにたりと笑う。禁断の方法を使い、父が持つ記憶を共有した。人族が魔族に対して犯した罪は、数えきれない。生き残っている魔族からも被害を聞いた。 「この集落は好きにしていい」  吸血種の長に許可を出す。都の南側に発展した街には、衛星のように小さな集落があった。それらを与える。同じように人族の血肉を食す種族に、集落を全滅させる許可を出した。街はすでに火の手が上がり、ガブリエルの爪に新しい血が伝う。  先に襲撃した街より、短時間で効率的に壊すことができた。明日襲う予定の西にある街は、もっと上手に処理できるだろう。最後に中央に位置する都を襲う。  周囲の街から隔離され、逃げ場を失った人族の嘆き、想像するだけで背筋がゾクゾクする。住人の三割ほどは逃がす予定だ。そのために北の街を残した。危険に敏感な人族は、すぐに別の都へ逃げ出すだろう。その口は、どんな噂を撒き散らすのか。  魔族は残虐で、抗う術はないと悲劇を伝えるのか。それとも肝心な時に不在だった勇者を罵るか。どちらにしても、ガブリエルに損はない。森人達は囚われ死んだ仲間を弔うため、全力で森を広げている。この都もすぐに緑の森に覆われるはずだ。  魔族の領地はすべて、美しい緑の森で塗り替えよう。醜い人族の建物も、享楽に溺れる文明もすべて消してしまえばいい。森の獣のように、狩るための獲物をわずかに残す。全滅させれば神が介入すると知った。ならば壊滅寸前で矛を収めれば良い。 「ったく、魔王になる奴は頭が良すぎて、俺らには理解できねぇ」  そう言いながら、裏切らぬ誓いを立てた獣人バラムが肩を竦める。今日は獣人達の出番が少なかった。暇なのだろう、爪が綺麗に研げたと笑っている。 「明日は獣人による蹂躙を許可する。しっかり休んでおけ」 「お? そうこなくちゃ! 伝えてくる」  狼獣人のバラムは、嬉しそうに咆哮を上げた。その声が森に響き渡り、呼応する形で遠吠えが返ってくる。その声には、戦いの前の興奮が滲んでいた。
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