20.見える敵より崩れる足元の怖さ

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20.見える敵より崩れる足元の怖さ

 王都に向かう道中、勇者と魔法使いは素性を隠す。自ら喧伝し、領主の持て成しを求めなければ、バレることはなかった。  辺境で助けられた親切な村もそうだが、顔で勇者だと指摘される可能性は低い。それでも念を入れてローブで体を覆った。旅をする行商人もローブを愛用するため、不審がられることはない。埃除けや日差し対策、また冬は寒さ対策にとローブは人気だった。  暗い灰色のローブは汚れも目立ちにくく、旅をする者が愛用する。頭まですっぽり被れば、勇者の証である剣も隠せた。魔法使いは外見的に特徴は少なく、ほとんど目立たない。昔話のような杖も持たなかった。  王都に近づくにつれ、嫌な話が耳に入る。人の多い都や街は、それだけ交流が盛んな証拠だった。魔族の領地に近い都アナキンが落ちた……この噂は都に入る前から届いている。二万人の大都市が陥落し、周囲の街も焼かれたらしい。 「派手にやられたな」 「アイツらが邪魔しなければ、とっくに僕達が倒していたさ」  エイベルのぼやきにゼルクが応じる。小声でひそひそと話す二人は、大通りから一本入った脇道で休んでいた。国王や貴族が邪魔しなければ、とっくに新しい魔王と対峙していたはず。神殿が協力を拒む状況や、聖女と会わせない決断も、国王の影響だろう。  彼らの中でその結論が先に立つ。だから馬を借りられないのも、お金がなくて苦労するのも、すべて国王が悪い。前魔王を倒した功績を否定し、新魔王を助けるような動きばかりする。そう決めつけた。  実際、国王が勇者を糾弾したことで、貴族は一斉に背を向けた。集まったはずの兵力も、すべて周辺の警護に回されている。偽勇者に貸す人員はない、面と向かってそう言われた。  勇者の名で招集した義勇兵だ。本来ならゼルクに従うのが道理だった。しかし民は簡単に金で靡く。領主が金を見せながら「勇者について行けば無料奉仕だ」と言えば、すぐに手のひらを返した。命懸けで戦っても金にならない。同じことを言われれば、ゼルク達も背を向けるだろう。  だが、自分がするのと他人にされるのでは、まったく意味合いが違う。勇者ゼルクは裏切られたと感じ、魔法使いエイベルは迷い始めていた。このままゼルクと一緒にいて、未来はあるのか? そろそろ離脱してどこぞの領主に士官した方がいいかもしれない。  最後にまともな宿に泊まったのはいつだったか。温かい食事を摂ったのは? ふかふかのベッドや風呂は……。  エイベルとゼルクを繋ぐのは、同じ集落の出身者という絆だ。家族を殺され、復讐を誓った。それはすでに前魔王を倒すことで果たされている。国王という巨大な敵を作った幼馴染みに、どこまで付き合うべきか。  勇者の足元は揺らいでいる。目に見える敵『魔王』や『魔族』ではなく、同族に手ひどく裏切られる未来は、すぐ後ろまで忍び寄っていた。
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