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07.驕り高ぶり初心を忘れる
勇者は当代に一人だけ。複数の勇者が活躍した話はない。厳しい辺境を進むゼルクは、繰り返された惨劇の光景にうんざりしていた。
魔族は野蛮だ。宣戦布告もなく襲ってきて、兵士ではない普通の人を殺害する。その死体を弄んで尊厳を穢し、未来のある子どもまで標的とした。戦えない女性や年寄りも、区別なく命を奪う。残虐で情けを知らない狼藉者、山賊よりタチが悪いだろう。
すぐ駆け付けなかったことを嘆くゼルクも、同じ光景が繰り返されれば感覚が麻痺する。魔族が悪いんであって、僕達が遅かったわけじゃない。早く到着しても、同じように殺された。そう己を擁護し始める。
魔王を倒した彼らを褒め称える人々の民の声が、万能感を齎した。その感覚は独特の高揚を伴い、とても心地よい。自らを貶して嘆くたびに薄れる感覚を惜しみ、ゼルクはあっさりと手のひらを返した。
「すべて魔族が悪い。奴らを全滅させるべきだった」
「ああ、胸糞悪い連中だ」
同行する魔法使いエイベルが追従の声をあげる。誰かが同意すれば、それは正しいと感情が補正していく。後悔に泣くより満たされた。当然だ、腐った果実ほど甘いのだから。好んで腐敗した甘い香りに手を伸ばす勇者と魔法使いは、己を正すことをやめた。
温情で全滅させずにおいてやったのに、恩を仇で返されたと舌打ちする。幼馴染みである二人は、同じ町の出身だった。さほど大きな町ではない。中央の神殿から発展した円形の、どこにでもあるような町だった。農業と酪農で生計を立てる人々は善良で、外部から持ち込まれる小さな情報に一喜一憂する。
豪華ではないが満足できる食事、小さいが暖かな家、母親が縫ってくれたお気に入りの服。悩みと言えば、拾った子犬が懐かないことくらい。平和な日々だった。何も足りない物はない満ちた生活は、ある日突然壊される。
攻め込んだ獣人が、町を壊滅させたのだ。愛用の鍬を片手に戦った父は、一撃で倒された。母はゼルクを庇って命を落とす。抱えて逃げようとした子犬は、噛みついて走り去った。何もかも失い、納屋で震えて過ごしたあの夜。
明るくなって外へ出ると、ほとんどの家は壊されていた。神殿も荒らされたが、装飾品や食料など盗まれた物はない。少し離れた隣家のエイベルと合流し、神殿の奥に隠れた。ぽつぽつと生き残った者が神殿に集まる。まだ肌寒い季節、震えながら互いの体温で暖を取った。
この日から魔族打倒を掲げ、二人は鍛えてきた。だけれど、どんなに鍛えても救えない者がいる。手を伸ばして引っ張り上げても、繋がりを断ち切る魔族がいた。勇者の神託を受け、魔法使いとして覚醒してなお……まだ魔族は人族の前に立ちはだかる。
「やっぱり皆殺しにするべきだったな」
根絶やしにしなければ、人族の未来はない。開拓した領地を奪うだけで、自ら生産しない連中に……平和な生活をこれ以上乱されたくなかった。
「国王陛下に軍の派遣を要請する」
勇者の呼びかけに、有志が集まる。国中へ告知された徴兵の触れに、人々は希望を求めて参加した。その数、およそ一万二千――全面対決が近づいていた。
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新作12/23公開
【宮廷占い師は常に狙われています! ~魔の手から逃げきってみせますよ~】
https://estar.jp/novels/26184489
宮廷占い師――他国にはない特殊な役職を代々引き継ぐ子爵令嬢リンネア。その的中率はほぼ100%を誇る。そのため国王陛下や宰相閣下の信頼も厚かった。同じ占い師であった母の跡を継いだリンネアは、常に狙われている。捕まえて利用しようとする者、邪魔だから排除しようと考える者……そして、彼女を穢そうとする者。純潔でなくては占えない。彼女は愛する人と結ばれるまで、お役目を果たすことが出来るのか!?
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