2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほお」
男は、入ってきた女を見てニヤリとした。
山一つ向こうの修道院から、わざわざ裏稼業の自分に会いにやって来るとは。
「尼さんも殺してほしい奴が居るのかい」
「いいえ、人を探しています。『ガーゴイル』と呼ばれる用心棒です」
「ガーゴイル? アンタんとこの修道院に付いてるだろう」
男は笑ったが、女は笑わなかった。
「以前、重要な使いの供として、師長に紹介されました。彼のおかげで度重なる襲撃をかい潜り、無事使命を果たすことが出来ました。お礼をしたいのですが、当時の師長が行方不明になり、連絡の取り方が分かりません」
「そんなことでここに?」
「探したくても情報が少なくて…いつも屋根の上や木の上にいて、あまり姿を見せませんでした」
「ああ。だから奴はガーゴイルと呼ばれていた」
「でも雨の日、私にマントをかけてくれたことがあります。フード越しに見えた横顔…プラチナブロンドの髪と青い瞳。私が知ってるのはそれだけです。あちこち探しましたが、見つかりません」
俯く修道女に、男は一層笑った。さて、この箱入り娘から何をどれだけ搾り取ろうか。
「ガーゴイルか…シマは違うが、知らんこともない。俺たちの中じゃ有名人だったからな」
「だった……?」
「ああ、アイツは」
言いかけて男はギクリとした。女の後ろに誰かいる。裏に生き続ける男が、今の今まで気づかなかったことに狼狽した。何者だ⁈
最初のコメントを投稿しよう!