序章

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 *   *   *    ポカポカとした陽気の中進行していった入学式も終わり、保護者は学園長や理事長からの説明(という名の親睦会)のために講堂を退場した。  眠たいという気持ちを抑えながら、講堂内の様子をからは見られない2階席の控え室から観察していると、トントンと肩を叩かれた。 「唯織(いおり)、次は始業式ですから準備してください」  振り向くと、あら不思議。先程までステージに立って司会進行をしていた生徒会副会長の如月が微笑みを張りつけて立っていた。  肩まで伸びた黒髪は、天井に吊るされた異常までに煌びやかな照明の光を天使の輪の形で反射し、朱色の瞳は常時貼り付けられた笑みにそって細まっている。  見たままの感想を言えば、美人に添えられた愛想笑いは恐ろしいと言ったところだろうか。 「唯織、聞いてますか?」 「あぁ、ごめんねぇ聞いてるよ〜」 「じゃあ早く行きますよ」  俺の返事に満足したのか、愛想笑いではなく自然と口端を上げた如月は、俺の格好を上から下まで見ると軽く頷いた。先程まで人前にいたことでキツくつり上がっていた朱色が柔らかく細められる様は、幼なじみとして見慣れてはいても美しいなとは思う。  如月がその長い足を出入口の方へ向けようとしたとき、もう1人の足音が俺たちに近づいてきた。 「お前ら、何やってんだ」 「かいちょ〜」 「獅子堂、服装のチェックをしていたんです。あなたこそ今までどこにいたんですか?」 「あぁ?んなこと理叶には関係ないだろ」 「あります。あなたの無責任な行動でどれほど私が朝っぱから迷惑を被ったか!」 「ハッ、慣れろ。何年一緒にいるんだ」 「それとこれは別の問題です!」  目の前で、如月と夫婦漫才を繰り広げ出したのは生徒会会長の獅子王(ししおう)克登(かつと)。母親のヨーロッパの血を濃く受け継いだという金髪に青い目は、物語に出てくるような王子様を連想させる。が、父親から受け継いだという俺様がその容貌を王様へとランクアップさせていた。  放っておけば永遠と続く夫婦漫才だが、あいにくとこの後は始業式が待っている。そこには風紀委員会もいて、生徒会長と風紀委員長の2人は非常に仲が悪い。つまり、ここでこの2人を止めることよりも遅れていくことの方が問題である。 「かいちょ〜も如月もそこまでにして、始業式にいくよぉ。俺らがいないと始まんないんでしょ〜?」 「は!……つい我を忘れていました。ありがとうございます、行きましょう」 「あ〜、やっと終わった」 「獅子堂、この件はあとで話しますよ」 「…………」  あは、どんまいかいちょ〜、とは言わない。  こちらまで面倒なことに巻き込まれるのはごめんだからね。  階段を降りて一般生徒専用の1階控え室に入ると、そこには始業式に出る委員会の代表者が集まっていた。  手前側では、美化委員長の九十九 夕鶴(つくも ゆづる)、体育委員長の鷹司 蘭丸(たかつかさ らんまる)、図書委員長の縣 八雲(あがた やくも)、学級委員会会長の小田切 壮士(おだぎり そうし)がピンクベージュのソファに座り、お茶会を開いている。  生徒会が入ってきたことに気づいたのか、極度の人見知りである縣が小田切の後ろに隠れたのが視界に写った。社交性が求められるこの学園では、になる生徒会への態度としては疑問をもたれるだろうが、10数年を共に過ごしてきた仲間として誰も気に止めない。他の3人も、同じ役職持ちとして片手を上げたり、軽くお辞儀をして挨拶を交わす。  4人の奥、ステージに続く場所では、放送委員長の風早 旭海(かざはや あさみ)と広報委員長の猫屋敷 誉(ねこやしき ほまれ)がマイクなどの機械チェックや始業式の確認をしていた。  先程までの入学式とは異なり、生徒だけの始業式ではあるが、副会長が司会進行を行うことになっている。副会長が無理矢理会長を引きずっていって最終確認を始めた。  そして、生徒会と学園の二本柱を務める風紀委員会委員長の水埜 尋(みずの ひろ)、副委員長の蓮見 凛ノ介(はすみ りんのすけ)は奥側の椅子に座って待機していた。水埜は目を閉じ、蓮見はペラペラと風紀委員長に話しかけ続けている。  いつも思うけど、蓮見は無限に話す話題が出てきて凄いと思う。  あと1人、先生と最終確認をしている生徒会書記の杠葉 捺要(ゆずりは なつめ)が来れば一旦勢揃いになるかな。  カチリ、と時計の針がひとつ進んだ。  午前11時、始業式が始まる。
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