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* * *
ある少年は言った。
「どうしてオレも乗っちゃダメなんだよ!!」
と。
彼の傍で聞いていた、少年のトモダチは不満そうにこう発言した。
「ユウマくらい一緒に行ってもいいでしょう?」
「どうせ空きぐらい作ってるだろ」
「「一緒にクイズ解きたーい!」」
「……たの、しみ……」
すると、少年とトモダチに対して青年は言いました。
「お前ら何言ってるんだ!生徒会だからといって規則を無視するな!それに彼は一応歓迎される側だろう!これは3年が乗る予定のバスだぞ!」
これに対して、また少年は言いました。
「一緒に遊ぶのも歓迎じゃないのか!!」
____まるで絵本の中の会話みたい。
なんて、信じられないことに全て唯織の前で繰り広げられている現実だ。野次馬も増えてきて、このままだと予定通りに始められず、各方面に大変迷惑がかかる。
まだ少し離れて会話を聞いていた唯織は、今度はがっつり距離を詰める。すると、目敏い転校生くんがこちらを指差しながら大きく口を開いた。俺は咄嗟に手で耳を塞ぐ。
「あーーーーー!!!お前!八千代イオリ!!!」
最初に思ったのは、声が大きすぎる。工事現場にいるみたいで不愉快極まりない。
次に思ったのは、やっぱり名前知られたか。極力知られたくはなかったけれど、まぁ獅子王たちがそばにいる限り避けるのは土台無理な話だ。聞こえないように息を吐いて、口許には笑みを浮かべておく。
「久しぶりだねぇ、転校生くん」
「オレは物部悠真だ!!ユウマでいいぞ!!!この間はムカついたけど、許してやる!!!トモダチだからな!!!」
「はいはい、転校生くん、ちょおっとだけで良いから静かにしてもらえる〜?」
「なんでだ!!!オレと話せよ!!あとオレはユウマだ!!」
距離を3mほど開けて、転校生くんから視線を外し、獅子王たちを順繰りに見つめていく。先日の話し合いが効いているのか、獅子王の目に怯えの色が混じっていることが少し面白い。
「ん〜、獅子王」
「あ?」
「まずは生徒達への挨拶ありがとうねぇ」
「……いや、オレ様の仕事だからな」
「ん。如月?この状況はなぁに?」
「何って……新歓にユウマを連れていこうとしたらそこの筋肉バカに止められまして、説得をしているところです」
「うんうん。でもさぁ、如月?俺たち役員と3年生は明日来る後輩たちのために準備するために今日行くってこと分かってる〜?」
「分かっています。でも、明日はユウマと一緒に行動できないじゃないですか。だったら今日一緒に回っても良くないですか?」
「他の4人も同じ意見かなぁ?」
「あぁ」
「じゃあ転校生くんはお留守番の方が楽しめるんじゃない?」
唯織が放った言葉に、獅子王たちの表情が険しくなる。まぁ普段滅多に反対されることはなかった。当時は、ちゃんと信念を貫いていたから何も批判されなかっただけで、いつかはこんな時が来るとは思っていた。
「普段はメインをやらない会計の俺がセンパイと協力してちゃんと考えたんだよぉ?1年生が楽しめるように作ってあるんだから、転校生くんも同級生のお友達と参加させてあげた方がいいと思うんだけどなぁ」
「……でもッッ」
「本当に転校生くんを思っている人なら、同級生と遊ばせてあげるべきだと思うけどな〜」
「ぐっ……」
如月の表情が苦々しくなるのを観察していると、横から腕を強い力で引っ張られた。少し下に目線を向けると、小戸森双子が唯織の腕を掴んでいた。小戸森颯は若干不安そうに、小戸森慎はイタズラっ子の顔で唯織を見あげている。
「ねぇねぇ!」
「ボクたちは1年だからユウマと一緒にいていいよね?」
「「だから一緒に行ってもいいでしょー?!」」
双子の声が揃うと、獅子王がフン、と鼻で笑った。遠くに置いていた転校生くんも「こいつら可哀想だろ!!」と叫んでいる。が、これは想定内だ。事前に水埜や他の委員長たちと話し合って決めている。
唯織は、にっこりと笑みを深めた。
「いいよぉ」
「え……」
「やったー!!」
「ただし、2人も明日他の1年生と一緒に来なよぉ?」
「「えぇ?!どうして!ボクたちは役員だから今日行かなきゃいけないんじゃないの?!」」
「大丈夫だよ〜。実は会議の途中で、2人も1年生だから役員として同級生との遊べないのはダメだよねぇって話になったんだ〜。だから、もし2人が転校生くんとか同級生たちと遊びたいって気持ちが少しでもあるなら仕事よりもそっちを優先して欲しいなぁって」
ちゃんと“お友達”出来たなら良かった、と続けると、2人は少し怒ったように眉をしかめた。それを俯瞰的に、思うところでもあるのだろうなと見つめる。
まぁ、ここ数週間考えてみたけど、転校生くんの言霊だけではニンゲンを操れるほどの力はないと判断した。理由としては、言霊にそこまでの力を乗せることができるのはニンゲンではないからだ。唯織を慕ってくれている精霊や動植物たちが揃って『物部悠真はニンゲンだ』と結論づけているなら、ニンゲンなのだろう。
つまり、少なからず獅子王たちは何かを思って転校生くんと遊んでいるということになる。
「転校生くんを気に入ったんでしょう?行っていいよ〜」
その言葉に、小戸森たちは目を輝かせ、反対に体育委員長たちは絶望したように口を閉ざした。
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