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「まぁ申し訳ないけど獅子王と杠葉と如月は行かせてあげられないけどねぇ」
「「むむむむむむむ」」
「?……嫌なの〜?」
「いおり、今日の夜一緒にお泊まり会すること忘れたの?」
「いおり、ボクたち楽しみにしてたんだよ……?」
「「いおり、ボクたちのこと嫌い??」」
まるで幼子のように唯織にくっついて来る小戸森たちに、思わず目を見開く。唯織としては、まだお泊まり会のことを覚えているとは思っていなかったのだ。
「……そんなにお泊まり会したいなら別の日空けとくよ?」
「「ヤダヤダ!!もう待てない!!」」
「ボクたちいっぱい待った!」
「もう待てない!」
「……転校生くんと一緒じゃなくてもいいの?」
「「いいよ!!」」
「じゃあ、獅子王たちと一緒にバスで行く〜?」
「「うん!」」
「分かったぁ。転校生くんには責任を持って話をつけておいてねぇ」
転校生くんよりお泊まり会が優先されることってあるんだ。思ってもいなかった2人の行動が興味深い。
如月と杠葉もしょうがない、と転校生くんに明日合流しようと話をしているし、獅子王はバスに乗り込もうとしている。
ただ、納得していないものが1名。
「なんでだよ!!オレも行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい!!!」
キーンと耳鳴りがするほどの大きな声に目を細める。子供が駄々をこねるように両手両足を使って暴れる転校生くんを、如月と杠葉も困った様子で傍観している。
言葉に力を込めることができるようなニンゲンなのに、どうしてここまで情緒不安定なのか。不思議で仕方がない。
が、もうそろそろ出発の時間が近づいてきているし、転校生くんが寮に居ないことに気がついた彼のクラスメイトの2人が校舎の方から歩いてくるのが見える。
しょうがないか、と手のひらを胸元まで移動させて擦り合わせた。
____パンッッ!!
「ッッ___」
大きな柏手はバスが止まっているエリア全体に響き渡り、静寂が訪れた。
バスの入口に足をかけていた獅子王や、あれほど暴れ回っていた転校生くんもピタリと止まって唯織を見た。
「転校生くん、お迎えが来たみたいだよ?明日楽しんでねぇ。センパイ方も、もうそろそろ出る時間なので自分の席に座ってください〜」
すぐ近くまで来て止まっていた転校生くんのお迎え2人に彼を託し、奥のバスからこちらを見ていたセンパイたちにも呼びかける。あれほど暴れていた転校生くんが目を白黒させたまま2人のクラスメイトに引きずられて帰って行ったのを境に、他の人もゾロゾロと動き出す。
最後に如月や杠葉、小戸森双子がバスに乗車したことを確認して学園支給のスマホを開いた。そのまま電話帳を開く。
「八千代です。おはよう、水埜。今から出発するね」
『おはよう、無事に巻けたか』
「うん。警備の確認は順調?」
『あぁ、八千代家は優秀だな。こっちの準備は大方終わった』
「了解、じゃあ30分後に」
『あぁ。待ってる』
水埜からの報告を聞いて、唯織もバスに乗り込む。
運転手さんに声をかけてから蓮見の隣の席に腰を下ろした。
「イオリお疲れ様」
「ありがとう」
バスの扉が閉じて、ゆっくりと走り出す。
久方ぶりの転校生くんのいない日常が、一日だけ返ってきた。
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