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八千代家の動植物園では待ち構えていた水埜によって諸注意が行われ、スムーズに進行していった。
3年生は幼少期からメンバーが変わっていないこともあり、ルールへの順応の速さと聞き分けの良さは全体を通しても練度が高い。
説明が終わり、水埜も含めた全員が自由に動物や植物を見て回っている間に、唯織は1人だけ動植物園の事務室に足を運んでいた。いや、1人だけというのは語弊がある。隣には一ノ瀬とその後継者がいた。
ピンッと伸ばした背筋に銀縁の眼鏡、高齢であるが故の白髪も美しく整えられているじいやは、学生たちが楽しそうに園内を回っている声を聞いて嬉しそうに微笑んでいる。その様子はまさに“好々爺”である。
「ほほほ、日本の宝である若人がこうして八千代家の庭に興味をしてし下さるとは……じいやは嬉しいですぞ」
「群青の生徒は滅多に来ないだろうから珍しいだろうね」
「そうですなぁ……出来れば唯織さまがあの中に入っている光景を見たかったものです……」
「ふふ、じいやいつもありがとうね」
思わずこぼれた唯織の言葉に、じいやは目を緩ませて首を横に振った。
唯織の目の前にはじいやが入れたカフェオレが置かれ、後ろに回ったじいやは唯織の髪を解き始めた。初等部以来の久しぶりの触れ合いに、自然と目を閉じる。
「じいやに感謝することなんぞありません。久方ぶりにお姿を拝見できて嬉しい限りです。お元気でしたか?」
「うん」
「身体が痛むといったことはありませんでしたか?」
「ないよ、至って健康だった」
「素晴らしいことは沢山ありましたか?」
「あったよ」
「ほう!それはなんと!じいやは感激いたしました」
「んふふ、夏休みに報告に帰るね」
「ありがたき幸せ、じいやはまた長生きをしますな。旦那様も奥様も偲遠さまも喜ばれます」
髪にサラサラと櫛を通しながら、じいやは八千代家の近況を話し始める。
ちなみに、偲遠というのは八千代偲遠のことを指す。現在20歳の義兄で、とても優しく懐の深い、典型的な八千代家の血筋を引き継いでいる人。
義理の弟である唯織のこともよく見ていてくれて、長期休暇に帰ると必ず唯織を甘やかそうとする。最近は、大学のサークルに引っ張りだこだそうだ
養父は相変わらず世界各地を飛びまわり、義母は養父について行って他家の奥様方とのつながりの輪をどんどん広げているらしい。
こんな話をしてくれている片手間に、じいやの手によって編み込みが完成していた。
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