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暖かい日差しに眠くなりながら歌っていると、隣に人が座った気配がした。
目を開けると、水埜の綺麗なアメジストの瞳がこちらを覗き込んでいた。感情が読み取りづらい宝石のような瞳をジッと見ていると、大きくて、骨ばった手が頬に伸ばされた。目尻に添えられた親指が、何かを探すように涙袋をなぞる。
「……何か悲しいことでもあったか?」
「ん?どうして?」
「……いや、何もなかったならいい」
「……?」
「それよりも、今日も唯織は動物に大人気だな」
そう言われて周りを見ると、気づかないうちに小鳥や、蝶がパタパタと辺りで踊り、膝上にいる黒猫の親子は唯織を見あげていた。横にはリスが運んできた木の実が沢山置かれていて、褒めてほしそうに手のひらに乗って真ん丸な目を潤ませている。自由がきく親指で背中を撫でてやると嬉しそうに尾を振った。
「ふ、」
小さな動物たちを見ていると隣から思わずというふうに零れた声を耳が拾った。
左上にある水埜の顔を見上げると、口角がいつもよりも上がっている。
「!」
「なんだ?」
「水埜って……いや、そんなに面白かった?水埜もこのコ触る?」
「いいや、久しぶりに唯織が動物と触れ合っているのを見たなと思ってた」
「確かに?去年は俺が風紀委員だったから頻繁に会ってたもんね」
「あぁ。おまえは見てないと休まないから」
「そんなこと……今年はいい感じに手を抜いていこうって思ってたのになぁ」
「はっ、今の所生徒会の方が忙しいんじゃないか?」
「んふふ」
「笑ってないで、お前は人に頼ることを覚えろ」
「あいてっ」
そう言いながら額を人差し指でコツンとつつかれる。
水埜は1つため息をついたあと、脇に置いていた手提げを取り出した。中には大量の箱が詰まっている。一つ一つに鍵が付いていて、それを開ける鍵は今、水埜の手の中だ。
「さて、そろそろこれを3年に渡していくか」
「行くか〜2人で働くのは久々だねぇ」
「せっかくだから園内の地図も頭に入れる」
「明日は忙しいからね」
周りにいた動物たちに離れてもらってベンチから立ち上がる。3年生と役員たちは、明日のためにヒントを出すグループでゆっくり回ってもらうように頼んでいる。委員長たちとも打ち合わせ済みだから良いペースに調節してくれているはずだ。
「明日、水埜は警備だけ?」
「あぁ。唯織は仮装をして走り回るのか?」
「仮装ってほどじゃないよ。最初に布を被って獅子王が持ってる宝を奪って、問題バラまいて逃げるだけ」
「獅子王には伝えてあるのか?」
「伝えてあるよ〜この間渡した紙の隅っこに書いておいた」
「見てないんじゃないのか」
「まぁ、後でメールで伝えておくよ」
ちょうど桜並木に現れた3年生の最初のグループに宝箱を1つ渡しておく。箱の中身は万が一も考えて全て紙で、交換出来る物や食堂無料利用券など名称が書かれている。
ちなみに、広報委員会から生徒会や委員長などの人気生徒とのデート券が案として出されていたが、これは九十九センパイにより却下されている。
風紀委員長の水埜と生徒会の唯織が、一つ一つのグループと顔を合わせて宝を渡していくことで圧をかけることも忘れない。
「宝の隠し場所は、覚えてる〜?」
「は、はい!」
「頼んだ」
「ひ、は、はひぃ!!」
そうして、最後尾を歩いていた獅子王たちにも渡して前日にすべき仕事は終わった。そのあと、ホッキョクグマがいる檻の前のベンチに座って小休憩をとる。動植物園から引き上げるのは4時くらいの予定で、まだ30分ほどある。
靴を脱いでベンチに体育座りの姿勢でいると、水埜がポケットからキーケースのようなものを取り出した。淡い茶色と白を組み合わせた外装に、中にはキーを取り付けられる留め具と、下半分には機械が取り付けられていた。機械には外から押せるボタンが付いている。
「唯織、物部の件でまた面倒事に巻き込まれたらこれを押せ」
「……これなぁに?」
「防犯ブザー兼俺と蓮見に連絡が行くように細工してある」
「どうして俺に?」
「お前が強いことは分かってはいるが最近1人で行動しすぎだ。不利な状況に置かれたら誰も助けられないだろ」
「……客観的視点から見て?」
「あぁ。蓮見と話が一致した。身につけやすいデザインにしてもらったから持っておいてくれ」
「わざわざ作ったの?」
「気合い入ってたな。唯織の友人からの贈り物でもある、大事にしろ」
「うん……ありがとうね」
「お礼は蓮見ともう1人の友人に言っておけ」
「……二階堂も?」
あの2人と水埜に沢山心配をかけてしまった結果、防犯ブザーに落ち着いたのなら有難く身につけよう。金具でしっかりと腰に着けて上からカーディガンを被せておく。
一連の流れを見ていた水埜は、よし、と言うと立ち上がった。
「そろそろ最初に出発した奴らが帰ってくる。ザッと宝箱を確認してから合流するぞ」
「は~い」
確かにそろそろ予定の時間が近づいてきている。
体育座りをやめて靴を履いて、周囲に視線を向けた。出入口の向こうで並び始めたバスは半分に達し、ホッキョクグマのエリアからさほど離れていない入口の方に生徒も集まり始めている。
「さあ、頑張るかぁ」
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