第2章 崩落と柱

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 *   *   *      パリッとお菓子の袋の封が開けられた。  動植物園の購買に置かれていた一般のお菓子が物珍しく感じたのか、沢山買ってきた小戸森双子と杠葉が楽しそうにいくつかの袋を開いた。スナック菓子が1つと、チョコレート菓子が1つ、クッキーが1つ。   「沢山開けても食べきれないかもしれないから、一人一つまでにしようねぇ」 「「はーい!」」 「獅子王は気にならないの〜?」  つまらなさそうに体勢を崩してソファーの上から眺めていた獅子王の隣に腰を下ろす。以前の総会でのやり取りが思い起こされるのか、ビクリと気づかれない程度に肩を震わせる獅子王に喉の奥が笑う。   「あ?なんだ」 「いやぁ?食べないのかなぁって」 「オレは夕食の後にああいうのは食べないんだよ」 「今日はお泊まり会なのに?」 「てめぇも食べてねぇじゃねーか」 「んはは、俺は単純に入らないだけ〜」 「はぁ……むっ?!」    いつの間にか目の前まで来ていた杠葉が、ちょうど開いていた獅子王の口にスナック菓子を突っ込んだ。突然のことに驚いたのか、獅子王は目を見開いたあと大人しく咀嚼を始めた。  それに満足したのか、杠葉はカーペットの敷かれた床に体育座りをしてチョコレート菓子をもぐもぐと食べ始めた。   「杠葉、ソファーに座りなよ〜」 「む……?だ、いじょぶ」 「俺、先にお風呂行きたいんだよねぇ。だからさ、この王さまがどっか行かないように捕まえといて欲しいなぁって」  唯織からの“お願い”に杠葉が目をキラキラとさせて何度も首を縦に頷いた。杠葉がソファーに座り、スペースが狭くなったことに獅子王が少し嫌そうな顔をしているのをこっそり笑って、紅茶を飲んでいる如月の所まで移動する。   「如月〜」 「ッ?、な、なんですか?」 「お風呂、先に借りてもいい〜?」 「あ、はい、どうぞ。廊下を出て左手です」 「ん、ありがとう〜」    部屋を出てトイレを挟んだ更に横の寝室に入り、周囲に誰もいないことを確認する。そして、今日持ち運びをしていた小さめのショルダーバッグから私用のスマホを取りだす。数件着ていた連絡をサラリと流し見て、義兄の偲遠にいから送られてきた極秘の資料を八千代家の人間にしか開くことの出来ない特殊なルートを使って開く。ちなみに2年ほど前にこのツールも大々的なアップデートがされていて、現代の凄腕ハッカーでも情報が抜けないようにされている。  開いた情報のトップには『物部悠真』の文字。ただ、そこから下に書かれていたことは以前の上辺だけを掬ったものではなく、本来の彼自身の人生について記載されていた。    物部悠真、彼の問題のある性格、行動については以前の報告通りである。  実際に柊華学院においてイジメや暴力事件といった問題行動を起こし、退学になった。その他の面においても問題のある子どもと言わざるを得ない。  しかし、物部の現在と彼の幼少期、今置かれている状況についてはより注視すべきである。  まず、黒羽根により物部悠真の両親共に殺害されていたことが分かった。その後、黒羽根が物部悠真を拉致……を上手く誤魔化し引き取ると主張したため、親族は物部一家と元々疎遠だったこともあり承諾。  それ以降、物部悠真はある実験に繰り返し使われていた。  実験内容は人間の子どもを誘拐し、神に近づけること。一度殺した子どもを蘇生させようとしたり、子どもに断食をさせて生まれてくる渇望からモノノ怪を生み出そうとしたりと様々な拷問(実験)を行っていたことが調査の結果発覚した。  その実験の目的は尋問した元従業員は知らなかったようだが、ただ黒羽根は「やっと、やっと八千代を殺し、〖日生〗に醜い最期を贈ることができる」と度々呟いていたことが分かった。  結果、生き残り、黒羽根が満足するカタチになったのはたった1人。それが物部悠真。彼は言霊だけではなく、相手の心を不安定にすることで漬け込むという心理的な攻撃を得意とするようだ。   「……」    淡々と書かれた報告の下には、関係していると思われる少年たちの写真が数十名記載されていた。どの子どもも物部に似た系統の可愛らしい顔出ちをしている。確かに多くのモノが美しいものを好む傾向があるし、数百年前にいた〖日生〗は美しかったと聞く。  また後で犠牲になった子どもたちの情報を覚えることにしてスマホをショルダーバッグの中にしまう。部屋の隅に置いていた寝巻きと明日の服が入っているトートバッグを手に持って寝室を出て、お風呂場へと向かった。  
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