第2章 面倒な転校生と新歓

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 転校生くんを観察していると、突然スマホが鳴った。何かあったのかとスマホを開けると、ディスプレイには二階堂詩季の名前が表示されている。 『もっしもーし!』 「もしもし二階堂。楽しんでる〜?」 『んっふふふ!楽しんでるよ!絶好の王道チャンスだけど、宝探しってのもいいよね!』 「……?楽しめてるなら良かったよ〜。そうだ、二階堂、昨日水埜から防犯ブザー貰ったよぉ。ありがとうね」 『うぇ?!蓮見に秘密にしといてって言ったのにバレてる?!あれはオレたちが渡したかったから作ったんだよ。今日は付けてるの?』 「つけてるよ」 『ふふん、よしよし。危なくなったらちゃんと使ってよー!そうそう、それでさ、あのフードのヤツっていおりんでしょ?』 「あは、そう思った根拠は〜?」  人をよく見ている二階堂は観察力が優れている。今回は特にわざとわかりすくしているのもあって、二階堂なら簡単に俺のことを見破ると思っていた。  恐らく、二階堂は単に答え合わせをしたくて電話をかけてきているから、ちゃんと誰にも聞かれない場所で電話をしているはず。俺はグッとベンチの背もたれに体を預けた。 『あの礼、わざとやったでしょ』 「あそこで分かったの?」 『いや、歩き方で分かった。でもあのお辞儀は分かりやすかったよ』 「分かってもらえるように動いたからねぇ」 『なるほどね。あと、王道に気をつけて』  不意に真面目な声を出した二階堂は、実は、と続けた。 『昨日いおりんが王道を退けてから相当気が立ってるみたいで、学園を出る時からずっと「八千代はどこだ」って叫んでたから何されるかわかんないよ』 「へぇ、元気だね〜。二階堂は大丈夫なの?」 『……いおりん、オレが王道と同じグループだって知ってたな』 「知ってるも何も、総会で情報を先に見たからね〜。水埜が二階堂なら行けるって思ったんじゃない?」  そう。総会のときに見たグループ割には、二階堂が転校生くんと同じチームだと記載されていた。二階堂は転校生くんが来る前から“王道”と呼んで、学園に変化が起こることを予想していたし、2年S組の学級委員長としてとても優秀だし、転校生くんと組ませるには他にない人材だったのだろう。  他のメンバーも転校生くんを贔屓せず、親衛隊員でもない子を当てていた。 『ぐぬぬぬ。何に期待してんだっていう気持ちと腐男子(なかま)が同じグループにいて嬉しい気持ちといおりんが未だに風紀委員長と仲がいいことの興奮とで複雑な気持ちだぁぁあ』 「ふふ、相変わらずだねぇ。俺も転校生くんのことは監視してるし、何かあれば行くから安心して。まぁ転校生くんは1人行動をしてるみたいけど」 『監視してるってなに??!』 「あはは、そのまんまだよ。八千代家の大事な場所で暴れられるワケには行かないからね」 『あぁ、なるほど。ってことは忙しい時に電話しちゃったってこと?!ごめん!大丈夫?!』  見ていると言っても尚、こちらを心配してくる優しい友人に笑みを浮かべる。  ついでに、ひとつ助言を零す。 「二階堂、そこに転校生くんが近づいてきてるよ。早くグループに合流した方がいいかも」 『ぅえ!?マジか、ホントに見えてんだ。ありがと!逃げてくる!』 「うん、いってらっしゃい。俺はみんなを見守ってるよ〜」 『ありがとう!』  プツン、と電話を切る。  少し大きなヒントを出してしまったけど、まぁ均衡を壊しやしないから大丈夫だろう。転校生くんが来る前に二階堂は逃げられたらしく、別の防犯カメラにその姿が写った。  相も変わらず叫びながら走り続けていて、あのウィッグの裏に隠された桃色の可愛らしい少年の姿はまるで見えない。あの黒い悪魔に育てられた転校生くんは何を思って俺を探しているのか。   「……待ってるよ、物部悠真くん」
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