第2章 面倒な転校生と新歓

43/49
447人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
 俺が“転校生くん”と呼ぶと、目の前から「クソッ失敗した」と聞こえてきた。どうやら、この場において大声を出すことをやめてくれるらしい。 「チッ、お前八千代か?」 「ぴーんぽぉん、結構手こずってたねぇ。転校生くん」 「……オレは転校生くんなんて名前じゃない、物部悠真だ」 「知っているよ、」  ピクリ、と転校生くんの肩が震えた。  スッと俺が座っているベンチの向かいに置かれていた1人がけの椅子に手のひらを優しく向ける。 「遠慮しないで、?」 「……ッッ?!」  転校生くんの足が屋上の端から椅子に向かって歩いていく。そして、そのままドカりと音を立てて座った。  操られる身体に息をつまらせ、恐怖に喉を鳴らした。 「ッッ……な、なんだ、どうして、??」 「いい子だね、」  戸惑う転校生くんの名前呼びを止めると、身体に自由が戻ったようで、彼は急いで立ち上がった。ふわりと浮いたウィッグとメガネから、桃色の瞳が覗く。 「立っちゃダメでしょ、」 「〜〜〜〜ッッ!!ぐ、、、」 「いい子、Stay」 「ッッなんで!!立ち上がれねぇんだよ!!お前何したんだ!!」 「シーッ悪い子だねぇ、してね」 「ーーーーー!!」 「あは、いい子」  ニッコリと微笑むと、失礼なことに転校生くんは喉元から声にならない悲鳴をあげた。  手元にある防犯カメラの映像で、周囲に人がいないことと、転校生くんの声を聞いた人がいないことを確かめて被っていたフードを外した。 「改めてこんにちは、転校生くん。俺の名前は……知ってるならいいかぁ」 「……お前、オレに何をしたんだ」 「何って……キミが如月達にしたことと同じことかなぁ」 「……オレはお前みたいには出来ないぞ。どうしてそんなことが出来るんだ」 「んふ、俺の苗字を忘れたの〜?」 「八千代家だからって言いたいのか?」 「そうだねぇ。俺たちの中でも代々八千代家と、眞白(ましろ)家は日生に愛されている」  日生に愛されているってことは、森羅万象に愛されているのと、まぁ大体同じってこと。  そういうと、転校生くんは苦々しく口元を歪めて唸った。そして、その後不思議なものを見つけたように「あ?」と声を上げた。  黒羽根によって存在そのものを歪められた転校生くんの傍には行きたくないのか、周囲には何もいない。チュンチュンと鳴く雀は、転校生くんを敵とみなして俺の肩でステップを踏んでいるし、精霊たちは俺の背中にへばりついている。  今も声を上げた転校生くんを恐がるように精霊が俺の服を引っ張った。 「眞白家って……?オレはそんなこと」 「にも教えてもらってない?」 「ッ……うん、オレは八千代家しか知らない」  その言葉に、ふぅん、と相槌を打つ。自分の声に怒りが含まれていることに気がついたが、抑えられなかったものは仕方がない。  目線を向けると、ビクッと転校生くんの肩がふるえた。 「眞白家は、八千代家とずっと一緒に1番近くで日生を守っている家系だねぇ」 「じゃあ何でアイツは教えてくれなかったんだ?」 「さぁね〜。あとそれ、八千代家について教わったんじゃなくて『八千代を殺せ』って命令されたんじゃないの〜?」 「ぇ……そ、そんなわけないだろ!」 「どうかなぁ?まずは八千代家の中でも末席の俺を狙って此処に来たんじゃない?」  口元を引き攣らせた転校生くんは、ジリッと距離をとるように座り直した。慎重になっているのか、深呼吸をするのが聞こえる。 「……オレがお前を殺すって言ったら、どうするんだ?」 「っ、は、あはははっ」 「なんだよッ!」 「ううん。仮にキミが俺を殺そうとしても、どうもしないよぉ」 「ッッなんで?オレに殺されるかもしれないんだぞ」  手を震わせながら、髪の奥にある桃色の瞳が揺れている。その可愛らしい容姿を見えないようにするためのウィッグだろうが、まるで意味を成していない。声は抑えられても表情の管理は甘く、感情の起伏は激しめだ。  黒羽根が送ってきたにしては、あまりにも幼く知識も浅い。八千代家と日生家を教わったなら、もしくは自分で調べたのならば、ごく最近まで表舞台にいた眞白家についても知っているはずだ。  それを知らないということは、物部悠真の真の役割は八千代を殺すことでは無い。そして、それを本人は知らされていない。  つまり、物部悠真くんは捨て駒だ。 「キミに俺を殺せるの?」 「ぁ……」  か細い震えた声の後に、ポタリ、と頬に雫が伝った。声を詰まらせながら涙を流す姿は、迷子の子どものようだ。  あの情報通りならば、幼い頃から黒羽根に利用されてきた可哀想な子供であることには間違いは無い。  それでも、俺は笑みを崩さない。 「転校生くん」 「……っ、、、な、なに……」 「俺がキミを殺そうか?」 「____え?」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!