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翌朝、誰よりも早く行動を開始する。
置いていかれることが地雷になりつつある如月たちに置き手紙を残して、最上階のフロアから1階まで下りた。
受付周辺にいた交代で警備をしてくれている風紀委員に挨拶をして、ホテル前のロータリーに出る。そこには黒塗りの車と一ノ瀬が待機していた。
「おはようございます、唯織さま」
「おはよう、一ノ瀬」
音もなく扉を開けてくれた一ノ瀬にお礼を言って車に乗り込む。と、
「おはよう、唯織」
トロリと甘い声が唯織の名前を呼んだ。
驚いて隣を見ると、義理の兄___八千代偲遠がこちらを見つめていた。
その瞳は甘くとろけている。ここ数年間でこの義兄は唯織を愛しいと思ってくれているんだと理解した。肩に入っていた力をそっと抜く。
ゆるりとカールした美しい銀髪をサラリと揺らし、微笑んだ口元には妖艶さが滲み出ている。
「義兄さん?どうしてここにいるんですか?」
「んー?うちの大事な弟が大変な目にあってるって小花衣くんから報告があってね」
「……」
「唯織、大丈夫かい……いや、私に手伝えることはある?」
「……、群青学園に転校してきた物部悠真くんが厄介かなぁ」
「あぁ、彼か。私も一ノ瀬と父さんから報告を聞いているよ。黒羽根が関わっているようだね」
義兄さんは黒羽根を思い浮かべたのか、ニッコリと笑みを浮かべた口元が微かに引きつった。白くて柔らかさを保った美しい手が、唯織の手をギュッと握りしめた。
「唯織が助けて欲しいことがあればすぐに言って。余計なことは考えるんじゃないよ、いつでも飛んでいくから」
「……うん、分かった。いつもありがとう義兄さん」
今度は唯織の身体を包み込むように両手を背中に回されてギュッと抱きしめられた。ふわりと香る義兄さんお気に入りのシャンプーの香りに、もっと肩から力が抜ける。
“いつでも飛んでいく”は唯織の実兄が口癖のように言っていた言葉だ。義兄も生前実兄が言っていたことを聞いていて、実兄が亡くなったあと口癖のように言ってくれるようになった。
生まれた時からかけられていた、まさに魔法の言葉に急速に眠気が襲ってくる。
どうやら、思っていたよりも疲れは溜まっていたようだ。
すり、と頬を義兄さんの肩に擦り付けると、柔らかいカーディガンの肌触りが伝わってくる。
「唯織、10分くらいしかないけど寝てていいよ」
「ん……」
「おやすみ、ちゃんと起こすから寝てな」
ぽん、と優しく頭を撫でられて、とぷんと意識が泥の中に落ちた。
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