第3章 新入生歓迎会

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 午後2時。  義兄さんに見送られたあと(本当に唯織の様子を確認しに来ただけみたい)、3年生と役職持ちで最終確認を終わらせた。  今、動植物園の前には1・2年生と3年生が並んでいる。転校生くんを抑えるのに苦労したが、今のところ順調に進んでいた。  壇上の上では、獅子王が宝箱片手に士気を上げている。その顔は楽しそうに輝いている。 「お前ら!ここに他の宝物とは一線を駕す宝が入った箱がある!」 「うぉぉおおおおおお!!!」 「きゃあああああああああああ!!」 「よっしゃああぁぁぁああああああああ!!」  グイッと挙げられた少し大きめの4つの宝箱には、他よりも豪華な景品が入っている。  親衛隊や役職好きの人には、唯織以外の生徒会メンバーとのデート券が。役職付きに興味ない人には、好きな施設を1ヶ月使い放題券が入っている。  それを掲げて立つ獅子王を生徒たちの裏からこっそりと見る。今回の唯織の役割は、あの宝箱を盗んで2時間ほど逃げ続けるというもの。すぐにバレないように、一ノ瀬に髪を結ってもらい、3つくらいサイズが上の黒いパーカーを着てフードを被った。  厚底のスニーカーでトントンと地面を蹴る。 「オレが隠したこの宝箱を見つけられるかな!!」  その言葉を合図に、ちょうど空いている生徒の間を駆けていく。風紀委員と獅子王以外には伝えてないから、突然現れた黒いパーカーの人物に多くの生徒と教師がザワつく。  壇上にたどり着く前に手に持っていた紙を生徒たちの頭上にばらまいて注意を散らし、結構な高さのある壇上にダンッと足を踏み切って飛び乗り獅子王の頭上に掲げられた宝箱を掻っ攫った。 「おい!お前誰だ!」  その間に、多くの生徒たちが紙に目を通したのだろう不審そうな目が唯織に集まる。それに、口元だけ笑みを浮かべて優雅に礼をひとつ。  バサッと獅子王の手元にバラまいた紙と同じものを渡して壇上近くの木からパルクールの要領で熱帯生物のいる建物の屋上に登って身体を隠した。  ザワつきが止まらない中、獅子王を心配して集まってきた如月たちにも紙が渡された。  その紙には『宝箱は我の手にある。欲しければ我の正体を当て、宝箱を手に入れてみせよ。なお、この宝箱については学年の縛りはない。好きに考察し、我を捕まえてみよ』と書かれている。  わざわざこんな面倒なことをしたのは、宝箱探しに3年生も参加出来ないのを残念に思ったのと、獅子王たちに景品になってもらいたかったから。  つまり、どの学年にも楽しんで貰えるように企画を練っておいた。  紙にほとんどの人が目を通したことを確認した蓮見が、マイクを持って壇上の端に現れた。 「さて!何者かが獅子王会長の持っていた宝箱を盗んでいってしまったようです。紙に書いてあるように皆さんで犯人を探してください!ただし、注意点があります。1つ目、犯人だと決めつけて暴力や拉致といった犯罪行為をすることは許しません。2つ目、誰かが手に得た宝箱を後から盗んだり交換したりしてはいけません。3つ目、宝箱を手に入れたらすぐに近くの風紀委員に伝えてください」 「ということだ。お前ら分かったか」 「はい!!!!」 「ありがとうございます!!!」 「やっふー!!!」 「腐腐腐腐腐」  きちんとした説明がされたのを確認し、スタートの合図が聞こえてくる前に唯織は移動を始める。  まず、熱帯生物エリアを抜けて、他の動物たちの柵の間を駆け抜ける。そして植物園の前にある事務所が入った4階建ての建物の屋上に移動する。  今回は普通の宝箱のヒントを持った3年生が各動物と植物のエリアに2人ずつ配置されているから、唯織が地上にいると邪魔をしてしまう可能性が高い。  だから唯織は屋上を選んだ。登れるようにはなっているためセーフだろう。  一ノ瀬に渡された日傘をさして、綺麗に磨かれたベンチに座る。そして、そこに置いておいたタブレットから防犯カメラの映像を覗く。  基本的に転校生くんの監視ためだが、制裁やイジメ、強姦等々の犯罪をしている生徒がいれば水埜と連携して取り押さえる。  現状を確認するためにスマホを取り出して水埜にかける。2コールで水埜の低い声が耳元に響いた。 「やっほぉ、水埜」 『あぁ、無事か?』 「無事だよ〜。どう?そっちは」 『こちらも順調だ。どの学年も宝探しを楽しんでいるようだ』 「良かった〜宝箱盗んだかいがあるなぁ」 『例の1年は盗人、というよりお前を探しているらしい。気をつけろ』 「りょ〜かい、気をつける」  電話を切ると、ちょうど防犯カメラに転校生くんが写った。  本当に走り回って唯織を探しているようだ。小柄な体型を活かして器用に人の間を駆け回り、口元には笑顔を浮かべている。その後ろを追いかける爽やかくんと一匹狼くんは幸せそうな顔をしている。 「八千代ぉぉぉお!!捕まえてやるぞぉぉぉおぉぉ!!」
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