序章

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「最後に、生徒会の皆様のご挨拶と任命式です」  うおおおおおおおお!!やら、きゃあああああ!!やら歓声が講堂に響き渡った。  特に、俺たち新1年生の盛り上がりは半端じゃない。ちなみに俺もテンションが上がりすぎて叫んだ。  隣の人、うるさくてごめん。  ステージ上にコツリ、と重みのある足音を響かせながら上がってきたのは生徒会会長――獅子王(ししおう) 克登(カツト)様。  ()()通りの俺様な性格と、それに見合う能力を持った方である。ちなみに風紀委員長とは犬猿の仲である。  もちろん容姿も大変素晴らしく、サラッと風に揺れる金髪とそこから覗く蒼眼、彫りの深い目元はまさに王の風格である。  上に立つものとして特有の圧はあるが、恐ろしいと思うような類ではなく、飄々とした余裕まで垣間見える。  個人的について行ってみたいと思う上司No.1はこの方だ。  委員長方と対面に立った獅子王様は、手に持ったマイクを口元まで運んだ。  その動作だけで、一言も聞き漏らすまいと静かになる俺たちは、獅子王様に躾られていると言っても過言では無い。静かになった俺たちを見て満足そうに口端を上げた獅子王様は、腰にグッと響くような甘さのある声で新1年生への祝辞と在校生への感謝を語った。  そして、一区切り息をついた獅子王様が講堂全体を見渡した。 「じゃあ、これから生徒会役員の正式な任命式を始める」  そう言って獅子王様は舞台袖にチラリと視線を向けたあと、ニヤリと口端を上げた。  それはそれは愉しそうな表情で、そのお顔の素晴らしさとトップシークレットだった今期の生徒会の皆様の登場に俺たちも悲鳴や歓声を上げる。  懐から白い封筒を5つ取り出した獅子王様は、丁寧に机の上に置きマイクをスタンドにセットした。  会場全体が静まり返った。 「始める。如月理叶」 「はい」  凛とした声が騒々しい講堂に通る。天使の輪を作るほどサラサラとした黒髪を肩ほどまで伸ばし、朱色のつり目をキリッと瞬かせる副会長様が登場した。  さきほども入学式でお顔を拝見したが、相変わらず美しい。その表情筋は常にほほ笑みを保ち、物腰柔らかなお方でもある。そして、()()通り、如月様は腹黒らしい。  入学式のときと違う点をあげるとするならば、先程まで首元にあった黒いネクタイがないことだろうか。  そんなことを考えていると獅子王様が白い封筒から真新しい黒いベルベット生地の布を取り出した。 「如月、副会長だ。今回もよろしく」 「了解です、振り回して差し上げます」 「ふん」  マイクを通して交わされる尊い会話に気が遠くなりそうになるが、更に衝撃的な光景が目に飛び込んできた。  なんと、獅子王様が取り出したベルベット生地の黒い布を如月様の首にしゅるっとネクタイ結びをしたのだ。クイッと角度まで調整されるその光景は、まさに夫婦……いや、逆だけど夫が嫁のネクタイを結ぶのもいいよネ!  てか高等部ではこんな美麗な任命式がされるんですか?!?!聞いていないのだが?!?!っていうか高等部でやるなら中等部でもしてよ!!!  ……おっと、失礼。取り乱したぜ。  けど許してくれ。  全く高等部内部の情報が流れてこなかったんだ…… 「次、杠葉(ゆずりは) 捺要(なつめ)」 「……うん」  舞台袖からゆったりとした足取りで出てきたのは、ふわふわと毛先がカールした淡い茶色の髪に、優しげな緑の瞳を眠たそうに細めた大型犬(ゴールデンレトリバー)……じゃなくて、杠葉様。  身長200cmという高身長で、食べることが大好き。その中でも甘いもの好きというかっこかわいいを体現させた存在。ゆったりとした話し方が特徴的だ。親衛隊からは飴玉やチョコが恵まれているらしい。  そんな彼も獅子王様の前までたどり着くと、ソワソワと獅子王様の手元を見つめた。そこには、同じくベルベット生地の黒布が握られている。 「捺要、書記だ。あまり無理せずにやっていこうぜ」 「……うん、ありがと」  しゅる、と杠葉様の首元にもネクタイが結ばれた。  ふにゃりと嬉しそうに笑う杠葉様に、獅子王様も満足そうに頷いた。眼福である、はぁ……これで杠葉様の方が少し背が高いのも萌える。
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