序章

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「次は2年、八千代 唯織(やちよ いおり)」 「は〜い」  ヤチヨイオリ……?  聴いた瞬間取り込まれそうになる中性的で耳に馴染む柔らかい声も名前も聞いたことがない。  そんな生徒会メンバーに選ばれるほどの人で知らなかったことなんてあるか??  いや、ない。  まさか、高等部では既に例の転校生が来ているのか?!  しかし、周囲からは単純な歓声とはまた違った声が湧きあがった。  軽やかな足取りで現れたのは、とんでもない美人だった。  腰あたりまで伸びた白いシルクのような髪を下の方で括った美しい人。  長い髪、髪留めに使われている黒い紐、上に羽織っているロングカーディガンが、それぞれ彼の歩調に合わせるようにゆらりと揺られている。  だからか、パッと見た時に羽衣を羽織った天人が現れたのかと錯覚した。  同じ新1年生の号泣しながら歓喜に満ちている歓声は、「八千代様が帰ってらしたのって本当だったんだ!」「相変わらず美しいな」「どこに行ってらっしゃったんだろう?」などなど。  つまり行方不明だったっけこと?  不思議に思いながらも、ゆったりと歩く八千代唯織さまをジーッと見つめていると、隣に座っていた同じ腐った友人が顔を真っ赤にして鼻息荒く耳元で囁いた。  ちなみにこの友人は群青学園の初等部から在籍していて、あまりにも美男に囲まれすぎて美男×美男にしか触手が動かない腐男子(オトコ)である。 「お前は中等部からの編入だから知らんだろうが、あのお方は幼稚舎から初等部までこの学園にいらした八千代唯織さまだ。突然、中等部の春から姿を消してしまったんだ。あの唯一無二の姿を見ると、去年から高等部にいるという噂は本当だったみたいだな」 「なるほどね、サンキュ」 「いいってことよ」  ……ということらしい。  獅子王様の元まで歩いていった八千代様は、優しい印象を与える銀色のタレ目をゆったりと細め、穏やかな微笑みを浮かべた。  彼自身の色味だけでいうと、白髪に銀色の瞳という配色で、まるで寒い地域に住む狼のようで少し鋭い印象を与える。しかし、微笑みひとつで印象をガラリと変え、軽薄そうではありながら、優しく穏やかそうにも見えるのは恐ろしい。  興奮冷めやらぬ俺たちの様子に、獅子王様は面白そうに笑った。  ちょ、その息の出し方ズルくないですか? 「八千代、みんなお前のことを待っていたみたいだぞ?」 「あは、嬉しい限りだねぇ。まぁ期待に添えるように頑張るよ〜」 「あぁ、八千代は会計だ。よろしく」 「うん」  緩い話し方をされる八千代様は、獅子王様の言葉に嬉しそうに口元を緩めた。  首元から長い髪を持ち上げた八千代様によって現れた白い首元に、獅子王様が恐らく生徒会共通の黒いベルベット生地の布を結んだ。が、その形はネクタイではなくリボンタイの形にされている。ヒラヒラと可愛らしいリボンの形で揺れる布に、八千代様は眉を下げた。 「なんで俺だけリボンにしたの〜?」 「似合うだろうが」 「ネクタイも似合うでしょ〜」 「まぁな、だがお前はこっちだ」 「ふぅん……」  くるりと黒いリボンタイを指先で弄んだ八千代様は、「まぁいいか」と呟いて、杠葉様の隣に並んだ。キャーキャーと黄色い歓声が響く中で、杠葉様が八千代様に「似合ってる」と呟いたのが見えて(読唇術)きて悶える。  さらに杠葉様と八千代様の頭一つ分より少し大きい位の身長差、萌える。 「最後、1年から小戸森 颯(こともり はやて)、小戸森(しん)」 「「はーい!!」」  元気いっぱいに俺たちの席から飛び出したのは、小戸森双子。水色の髪に色違いのヘアピンをつけ、そっくりな容姿に海底のような瞳をイタズラ気に開いた小戸森双子は、俺たちと同じ新1年生である。  中等部でも人気を博し、生徒会長を務めた双子は高等部でも生徒会に所属するようだ。  常に元気いっぱいの様子であちらこちらに出てきては、瓜二つの容姿を使って教師にイタズラをしたり、中等部の時も予定になかった花火を打ち上げたりとイタズラ好きである。ちなみに颯さまが兄で、慎さまが弟である。 「よし、新1年生とはいえお前らだからな。遠慮なく行くぞ」 「もっちろーん!」 「任せてよ!」 「「カイチョー!」」 「あぁ、2人とも庶務だ」 「「はーい!」」  ピョンピョン獅子王様の周りを飛び跳ねていた小戸森双子は、獅子王様が黒い布を手に取ったのを見るとピタリと動きを停めた。  会長様の手でお2人の首元にリボンが作られた。器用なことにリボンの形は鏡合わせのようにされている。小戸森双子は、お互いの顔を見合せて「「似合ってるー!」」と楽しそうに声を上げた。  そして手を握ってピョンピョンと八千代様の隣に並んだ。  凄い、美人系、癒し系、儚い系、かわいい系、そしてカッコイイ系とジャンルの違うイケメンが揃ってる。眼福眼福。  ズラリと生徒会の皆様が勢ぞろいし、最高潮の盛り上がりを見せる俺たちに、獅子王様はカチリとマイクをスタンドから取り出してスイッチを入れた。 「以上が今期の生徒会メンバーだ。各々が生徒のために努力をし、お前たちの期待に応える。よろしく」  獅子王様のご挨拶の後に、如月様たちが一礼をした。獅子王様だけが、歓声を上げる俺たちに満足そうに口端を上げた。  それから、生徒会の皆さまが各委員長さまたちの対面に立ったところで放送委員会から始業式の閉会が宣言された。    ……そういえば、今年の生徒会と風紀委員長は大体()()だったな、なんて。    *    *    *
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