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第一章
スラリと長身で白衣が似合う小野圭は、敏感肌の人の為により良い製品を届けようとして開発に取り組んでいる生粋の理系男子だ。二十九歳、独身。今のところ、誰とも付き合うつもりはない。
それなのに、しつこく迫ってくる馬鹿女がいる。それが悩みの種だった。
営業部の浅香ユリアは二十五歳のクソビッチ。社内の会議室や資料室で、バツ一の男性社員とセックスを満喫するような淫乱だ。
社内の女達からは黴菌の如く嫌われており、男性社員も半笑いを浮かべて敬遠している。
『ユリア、取引先の部長の股間を撫で回して契約をとったらしいぜ』
『うちの社で、ユリアと寝た男ってさ、みんなイケメンだよな。あいつって、何気に面食いなんだよな~』
『去年、イケメンの新入社員の田中、ユリアの誘いを断ったせいで地方に飛ばされたみたいだぞ。とんだ逆恨みだよな』
『マジか。おっかねぇな』
『でも、田中営業の成績が伸び悩んでいたから地方に飛ばされたのかもしれないけどな』
『まぁな、ユリアって、ああ見えて仕事は出来るからな。営業二課の部長は手放しで褒めてるよな』
ビッチだが、営業成績が良かった。いや、ビッチだからこそ、順調に契約件数を伸ばしているのかもしれない。おそらく、なりふり構わずに枕営業をしているのだろう。
どうやら、三流の女子大を卒業した後、コネで入社したようである。
我が社の社長夫人の親友の娘という事もあり、誰も奔放なビッチぶりを注意しようとはしない。
これまでに何度かユリアに誘われたが、いつも素っ気無くスルーしてきた。すると、圭の頑なな態度に業を煮やしたのか脅迫してきた。しつこい女だ。
「ねぇ、あたしとセックスしてくれないのなら、あなたの妹の内定を潰してやるからね。うちのママの人脈を利用すれば人事なんて、どうにでもなるのよ」
「はぁ?」
なんて横暴な奴なのだと、喉を軋ませながらも呆れたように見つめ返していく。
「この一年間、あたしの誘いを断り続けたわね。あたし、狙った獲物は落とさないと気が済まない主義なのよ」
研究室の前の自販機のところで待ち伏せされ、訳の分からない因縁をつけられているのだから、たまったもんじゃない。ああ、うぜぇ。今すぐに、ユリアの顔をグーで殴って叩きのめしてやりたい。
けれども、こいつのせいで警察沙汰になるのはまっぴら御免である。それに、セクハラを受けていますと上司に助けを求めるのも癪だ。ああ、クソッ。腹の底から湧き上がる嫌悪感を押し込めるようにして黙っていると、巻き髪を揺らしながら、ユリアがジワジワとにじり寄ってきた。
「ねぇ、教えてよ。なんで、あたしじゃ駄目なのよぉ」
そんなの決まってる。おまえじゃ、オレのイチモツが屹立しないんだよ。だが、社内きってのイタイ女を刺激するとマズイので理性で感情を押し殺す。
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