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22 ひよっ子、欲情する★
結局、ヤンは何も咎められることはなかった。
そしてそれからも、一日の仕事を普段通りにこなす。アンセルは、ハリアが強引に話を切り上げたことについて、こう語った。
「お気に入りの部下が、酷い扱いをされてたって分かって、頭にきたらしいよ」
お気に入りの部下の部分は一ミリくらいは理解できたが、酷い扱いというのは分からない。平和に、穏やかに過ごしていただけだとヤンは反論したけれど、それを聞いたアンセルは、悲しそうに笑っただけだった。
そんな訳で、変わらず従騎士として過ごすことになったけれど、緊張の連続で疲れてしまう。なぜなら執務室ではレックスの膝の上に座らされるし、訓練ではレックスと身体が少しでも触れるとビックリしてしまった。行動自体は今までと同じなのに、ヤンが警戒し過ぎているのだ。一体自分の身に何が起きたのだろう? 体調も何だかおかしい。
だから、シュラフに入った頃にはすっかり息が上がり、身体が熱くて仕方がなかった。
ヤンはシュラフの中で小さく丸まる。
身体が嫌という程敏感になって、服やシュラフが擦れるのも耐え難い。もしかしてこれは、と思ったけれど、そんなはずは、と思い直す。
(だって……今までこんな風になることなかったのに……!)
こんなに身体が疼くことも初めてだった。何とかして収めようとするけれど、意識すればするほど、身体の中心が熱を帯びていくのが分かる。
どうしよう、とヤンは迷った。
今までそういう仕事をしてきたため、相手に触れることはあっても、自分は二の次だったことがほとんどだ。それに、蛇からの逃亡生活でそういう処理もご無沙汰だった。どうして急に、と思わなくもないけれど、欲に素直に従う訳にはいかない。
なぜならここはレックスの部屋で、隣の寝室では彼が寝ているのだ。こんなところで致せば、バレるリスクも高い。
そしてバレたその時には、彼は冷たい目でヤンを見て、こう言うに違いない。
『騎士たるもの、己の欲望に負けるとは』と。
(でも……)
ヤンは丸まった体勢で手を下半身に持っていく。
――少しなら。静かにすればできるのでは?
そんな考えがよぎり、服の上から先端をそっと撫でてみた。
「……っ」
途端に痺れるような快感が生まれ、声を上げそうになって慌てて唇を噛む。張り詰め過ぎて痛みを感じ始め、宥めるようにもう一度先端を撫でると、硬く膨れたそこからじわりと何かが滲み出るのを感じた。
「ん……っ」
もう片方の手で口を押さえ、ヤンは先端を撫で続ける。モゾモゾと足が落ち着かなく動き、やがて滲み出た愛液が服に染みを作ってしまった。
「は……」
ここまで来てしまったらもう我慢できない。声さえ上げなければ大丈夫、とヤンは下穿きの中に手を忍ばせる。下穿きの中は体温で熱くなっていて、張り詰めた怒張はトロトロと先走りを流していた。裏筋を撫でると、ひく、と腰が動いて甘い吐息が出てくる。久しぶりに触れるそこは、かなり敏感になっているようだ。
すると、レックスの寝室から物音がした。驚いて肩を震わせたヤンはその体勢のまま固まり、耳をすませて物音を探る。
まさか、気付かれた? ヤンの心臓が嫌な意味で大きく脈打つ。
キィ、と小さな音を立てて寝室のドアが開く。ヤンは慌てて目を閉じ寝ているふりをしたけれど、上がってしまった息は誤魔化せない。
「……どうした、具合が悪いのか?」
レックスがそばまで来て、しゃがんで様子を見てくる。ヤンは目を閉じたまま、お腹が痛いんです、と嘘をついた。
やっぱりバレた、何とかして誤魔化さないと。
「お腹? ……見せてみろ」
「えっ? いや、このまま横になっていれば大丈夫ですからっ」
ヤンは慌てる。シュラフで隠れているからいいものの、レックスに見せたら確実にバレてしまう。実はムラムラしていたんです、なんて知られたら、今度こそ引かれてしまう。
「昼間から少し様子がおかしいと思ってたら……従者の体調を管理するのも主人の仕事だ」
見せてみろ、とレックスはシュラフに手をかけた。ヤンは剥がされそうなシュラフを掴んでイヤイヤと首を振る。
「いいから放っておいてくださいっ、そのうち収まりますから!」
「そう言って、重篤な病気だったらどうする」
「あ……っ」
本気で心配しているのか、レックスはシュラフを強引に取ってしまった。ヤンは身体を丸めてお腹を押さえるふりをし、これ以上見せろと言われませんように、と願うしかない。
「お腹の、どの辺りだ? 安心しろ、多少の医学的知識はある」
そんなこと、知っていても今は役に立たないです、と言いたかった。痛いのは腹じゃなくて勃ち過ぎた性器だし、見せてもどうにかできるものじゃない。
「いや、……だから、大丈夫ですって……」
「……呼吸が乱れて汗もかいている。普通じゃないのは確実じゃないか」
ここか? と折り曲げたヤンの身体の隙間に、レックスの手が強引に入ってきた。
「ぅ……っ!」
しかもヤンの身体は堪え性がなく、レックスのその手に大きく震えてしまう。もしかして今の反応で気付かれたかも、そう思ったら恥ずかしくてシュラフを頭から被りたかった。
「ヤン」
短く、レックスが名前を呼ぶ。不覚にもその声にゾクリとしてしまい、ヤンは呻いた。
その声で名前を呼ばないで欲しい。自分がレックスに認められて、さらに信頼されていると勘違いしてしまいそうだから。
自分は頼りなくて、鈍くて、従騎士としては役に立たない元男娼なのに。
「お、お願いですから……寝ていれば治りますので……っ」
「……人の心配はする癖に、自分は心配されたら拒否するのか」
「……っ」
レックスの言葉に、ヤンはドキリとした。
――だって、仕方がないじゃないか。体調が悪いと知られたら、仕事がなくなるんだから。
そう思ってあれ? と気付く。
今、目の前にいるのはレンシスではなくレックスだ。しかも体調不良ではなく、ただ身体が興奮しているだけなのに、どうしてそんな考えが浮かんだのだろう、と戸惑う。
「……出逢った頃はかなり痩せていたが、ここのところ食べる量も増えてきていた。順調に回復していると思って油断したな……」
「え……」
ヤンの反応に、レックスは短くため息をついた。
思えば、どれだけヤンが鈍くても、無知でも、注意をすることはあっても、そのあとはきちんと彼は教えてくれていた。もしかして、ヤンの正体に確証はなくても、勘づいていたのかもと思ったら、自分の鈍さが恥ずかしくなる。
でも、今のこれとそれは無関係だ。もう慰めるのは諦め、収まるのを待つしかないと思っていたら、レックスは急に実力行使に出る。
「ちょ……っ! レックス様っ」
ヤンの細い身体は、レックスの逞しい腕の前では無力だった。どこが痛い、と腹を探られ、ヤンは上衣の裾を引っ張って下半身を隠す。
「やっ、……だから、大丈夫ですって!」
「……もっと下か?」
ヤンは手でレックスの手を払うけれど、際どい所を撫でられ身体がビクついた。途端にレックスの手が止まり、これはバレてしまったか、とヤンは泣きそうになる。
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