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青空に流れる白い煙が見える。煙が出ているのは火葬場の長い煙突からだった。
「パパ、おばあちゃん、お空に行っちゃったの?」
空を眺めていたら康太が来た。
「ああ」
「ねえパパ、なんでこの前、おばあちゃんにみっくんって言ったの?」
「おばあちゃんがパパを大人になったみっくんだと思ったからだよ。認知症になってから、おばあちゃんは今の事がわからなくなってたけど、あの時は今の事をわかっていそうだったから、安心させてあげたかったんだ」
「そうだね。おばあちゃん、わかっていそうだったね」
「康太、おばあちゃんが二歳のみっくんを捜していたのは、パパがいけなかったからなんだよ。パパがちゃんと留守番をしていなかったから」
抱きしめた母さんの小さな体を思い出して目頭が熱くなる。母さんはあの時の事をずっと気にしていたのか……。
あの日、光喜から目を離した僕がいけなかった。
母さん、光喜の事は本当にごめんなさい。
「兄さん、何してるんだ?」
涙を拭って顔を上げると、喪服姿の光喜がいた。
「光喜、ごめんな。兄ちゃんがゲームに夢中だったから、二歳の光喜が一人で外に出たのも気づかなかった」
「二歳って、兄さん、いつの話をしているんだよ。母さんと兄さんはいつもその話をするな」
「光喜がいないとわかって、あの日は怖くて堪らなかったんだ。お前が無事に見つかったと聞いて、どれほどほっとしたか」
「親切な人が僕を保護してくれたんだっけ?」
「そうだ。近所の人が保護してくれて、おまわりさんと一緒にパトカーで迎えに行ったら、光喜、ヒーローの本に夢中だったんだぞ。母さんの方がみっくん、みっくんって大泣きしてて大変だった」
「母さんにも兄さんにも心配かけたんだな。ごめん」
「光喜、なんであの時、一人で家を出たんだよ」
「そりゃ、母さんに会いたかったからに決まっているだろう」
照れくさそうに光喜が笑い、煙突から流れる煙を見つめる。
「また会えるかな」
「会えるよ」
母さん、会いたいよ。
終わり
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