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 前橋にどう話そうか。板倉は、社員食堂で昼食の弁当を席に運びながら、ため息をついた。社員食堂も以前は調理人が厨房に入り、社内で調理した料理を出していたが、今では経費削減のため外部の弁当を希望者の分だけ配達するシステムになっている。半分冷めた弁当はおいしくなかった。  どうやって彼女を説得するか。  無理、ムダ、くたびれ損。そんな言葉が脳内を駆け巡る。前橋も自分も、この二年間自分の通常の仕事プラスでプロジェクトに取り組んできた。会社がよくなるように、社員がもっと幸せに働けるように。それだけに、今の状況は会社に裏切られたように感じてしまう。その会社を救うための重責を背負ってくれ、なんてアイツにはとても言えない。 「早苗、それはムリだよ!」  前橋いつきの声が飛びこんできた。いつきが太田早苗と並んでランチを食べている。マスクをしていても、早苗はきれいだ。板倉は二人の後の席についた。 「わたし毎年、花火大会に行ってるの。いつきも行こうよ」 「ボクも行きたいよ。でもコロナのせいで、花火は中止になっちゃったからムリなの!」  いつきは少しキレ気味の口調だ。今年は新型コロナ感染防止のため、花火大会も野外フェスも海の家もなくなった。つまらない夏。家に閉じこもるしかない。  板倉は思った。早苗は毎年の行事、習慣化していることができないのは嫌なんだな。  いつきは席を立った。 「もう行かなきゃ。またね」  早苗は、いつきに手を振った。いつきを見送った後、早苗は俯いて呟く。 「ああ、花火行きたかったなあ」  彼女の声が悲しそうで、板倉はもう黙っていられなかった。 「太田さん、サプライズ花火って知ってる?」  早苗が振り向いた。
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