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「あんたの会社、『事業再生ADRを申請した』ってニュースで見たけど、あれ何なの?」 「アカツキ製薬が倒産した、ってことさ」  訊ねてきた吉岡未亜に言い捨てると、板倉昌之は生ビールを呷った。蒸し暑い。喉の渇きが止まらない。  屋台村は電球色の灯りに照らされている。ここで未亜はアルバイトしている。カウンターの向こうで、親父がマスク越しでもわかる不機嫌な顔で焼き鳥を焼いている。皿を運んできた未亜もマスクをしていた。こんな小さな飲食店でも、コロナ対策しなくてはもう営業できない。  客は板倉しかいない。屋台村の中の店もほとんど休業していた。  板倉は、この店で偶然元カノの未亜と出会ってから時々通っていた。一人で焼き鳥を頼んでビールを一、二杯空ける。  未亜はアパートの家賃が払えなくて、板倉の金をとって逃げるようなデタラメな女だ。ちゃんと生活しているか、気になっていた。  未亜は料理を運び終えた後も、板倉に喋り続けた。 「あんた会社クビになるの?」 「会社は事業を継続すると言っているから、すぐにクビにはならないけど……おそらくリストラは避けられないし、みんな自分から転職していっているよ。給料四割カットじゃ生活できない」  事業再生ADRは、民事再生法や会社更生法による倒産とは違って、裁判所が入らず金融機関以外への支払いは継続される。影響は限定されるものの、借金が返せない、もうダメだ、助けてくれ、という状態に変わりはない。 「あんたも転職先を探さないと」 「そうだな」 「真剣さが足りないのね」 「俺、要領いいから、何とかなる」 「あ、そうか。辞めると『本社の君』に会えなくなるから辞めたくないんだ」  板倉はビールを吹きそうになった。 「『本社の君』なんていない!」
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