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会議室で高崎が待っていた。会議室は二人で使うには広すぎて、白々としている。高崎はいつも通り無表情で、何を考えているのか読めない。生え際が後退して広がった額に、苦労がうかがえた。
――この人が、会社がこれからどうなるのか、一番知っているのかもしれない。
質問しても答えてはくれないだろう。徹底した秘密主義。冷血漢だと言われている。
「わが社は事業再生ADRに入った。これを成功させるには事業再生計画が必要だ。銀行団やスポンサーを納得させなくてはならない」
高崎の声は平板で、何の変哲もないことを話しているように聞こえた。
「その担当を前橋いつきに任せたい。君から前橋に話してくれないか」
「え、再生計画を前橋に、ですか?」
何を言われたか、理解できなかった。前橋いつきはESプロジェクトの最年少メンバーだ。重々しく高崎は繰り返した。
「そうだ。前橋に担当させたい」
「それは無理ですよ!」
「再生計画を作り銀行やスポンサーの了解を取り付けなくては、アカツキ製薬はなくなる」
会社が潰れる。俺たちの職が、給料が、生活が、将来が、前橋の手に……
「そんな重責を入社三年目の女子に任せるなんて! 何考えてるんですか? あいつには財務の知識もない!」
「それは財務部にサポートさせる。問題ない」
「どうして室長がやらないんですか?」
この人以上に適任はいないはずだ。
「私ではダメなんだ。前橋には、命令するのではなくて、彼女自身がやる気になるように説得してくれ」
「そんな無茶な! 室長が話してください!」
「私の言葉じゃ前橋はやらないよ。頼んだぞ」
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