1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

 役員会議室で高崎室長が、現状の説明をしていた。社長、副社長、沼田本部長が報告を聞いている。 「取引関係は落ち着いています。取引先への支払は保証すると伝えたことが効きました。返済をストップした銀行は融資してくれませんが、メインバンクが当面必要な運転資金は供給してくれる形になっています」 「そうか。事業再生ADRで発表してよかった。倒産というイメージを与えずに済んだ」  副社長が言う。高崎は答えた。 「はい。それしか道はありませんでした」  ごまかしだ。沼田は内心嗤った。アカツキ製薬が終わったことを、目新しい用語で目くらまししただけだ。 「もう少し踏ん張れれば、営業停止処分が終わったのに」  悔しそうに社長が言う。 「社長、お言葉ですが、銀行団もこれ以上の貸出はできない、と言っています」 「それだ。わが社の再生には、銀行にいくらの債権放棄をさせなくてはならないんだ?」 「約一千億円です。メインバンクは、債券放棄に応じるかは、再生計画と当社に資本参加してくれるスポンサーが決まるかどうか、だと言ってきました」  つまり再生計画の出来が悪いと、銀行団が助けてくれないかもしれないのか。沼田の想像は悪い方悪い方へ向かった。 「スポンサーは見つかりそうか?」  副社長が訊ねた。高崎は冷静に応じた。 「今、名乗りを上げているのはCCR、世界最大級のバイアウトファンドです」 「つまりは、ハゲタカだ」  社長が吐き出すように喋り出した。 「瀕死のわが社を安く買い叩き、高く売り抜けるだけの奴らだ。利益第一、儲けるためなら、会社をバラバラにしても恥じない」  副社長が不安な顔になり、口を挟む。 「そんな奴らしかいないのか。国内でスポンサーになってくれる会社はないのか?」 「医薬品卸大手を中心に企業連合を組む動きがありますが、まだ形にはなっていません」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!