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 真菜は学校から出ると僕がやっと聞こえるような小さな声では話をするけど、小学生を見かけるとギュっと口を結び何も話さなくなる。姿が見えなくなってもそれがしばらく続く。真菜にとって学校への通学路もかなりの負担のようだった。  それで僕はどうしたら真菜が楽しく通えるかを考えた。それで通学路から少し外れたところにある駄菓子屋を見つけた。  僕たちは以前もっと大きな街のマンションに住んでいた。僕と真菜が大きくなったら個人の部屋が欲しいだろうと父さんは母さんを説得して少し離れたこの街に家を買った。ちゃっかり父さんの書斎もあって、本当はそれが欲しかったんじゃないかと僕は思った。父さんは働いてる会社から少し遠くなったけどリモートワークが週に何度か出来るみたいだからそんなに苦じゃないと言っていた。母さんはこの街で新しい職場を見つけた。この街は前に住んでいたところよりも空が広く見えた。道路の脇がすぐに畑ってところもある。夜はそんなに賑やかじゃない。すぐに静かになる。そんな街だったから確かに駄菓子屋は珍しくないと思った。でもまさか漫画で見かけるような駄菓子屋が存在するとは思ってもみなかった。  その駄菓子屋は通り沿いだったけれど普通の家の軒先にあった。その家も二階建てだったけれど表が板のような木で出来ていてかなり古いような家に見えた。周りには普通に家が建っていたけれど、そこだけポツンとずっと昔から建っているように見えた。  小さな店ではところ狭しと品物が並び、どこに何があるか分からなかった。それは宝探しのようで僕たちは楽しかった。店番をしているのはお婆さんだった。レジ前に座りいつもこっくりこっくりと首居眠りをしているようだった。でも不思議なことに僕たちが品物を見つけられないでいると後ろに立っていて、僕たちに探し物を尋ねてきた。そして僕たちが散々探しまわって見つけられなかったものを「あの棚の左から三番目にあるよ」とかすぐに教えてくれた。僕と真菜は学校帰りにそこに寄るようになった。そこで毎日ひとつかふたつだけ買うと決めた。それならお小遣いの範囲内で収まったし、父さんにこのことを話したら内緒のお小遣いをくれたから問題はない。  本当は学校帰りに駄菓子屋に寄るのはいけないことだ。けれどランドセルを置いて駄菓子屋に向かうとその頃には小学生でいっぱいになっている。そうすると真菜が店に入れなくなる。だから僕たちはいけないとは思っていたけれど、学校の帰り道にまっすぐその駄菓子屋に行くようになっていた。  真菜は宝石飴が大のお気に入りだった。指輪の形になっていて真ん中の宝石のところがキャンディになっているものだ。いつもそればかり買おうとするので、僕が止めたくらい気に入っていた。 「毎日来てたらいつかお店で売ってるのを全部買っちゃうかもしれない」と真菜は心配していた。僕はそれはないと答えた。だって奥からどんどん色んなものが出てくるんだ。なくなることなんてありえない。きっとあのお婆さんだって全部の種類は覚えていないと思っている。
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