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 次の日ゴリ男は教室に入ってくるなり面倒くさそうに僕のほうにやって来た。 「おい」僕の目の前に立つとゴリ男はバツの悪そうな顔で声をかけてきた。 「今回は見逃してやる。ルールはルールだからな」  謝るかと思ったら偉そうにそう言った。けどそう言ったらまた喧嘩になりそうだったので僕は「おう」とだけ返した。 「てか病気なら病気って言えよ」 「真菜は病気って決まったわけじゃないよ」 「でもそうかもしれないんだろ? だったら先に言えよな」 「言わないよ、そんなこと」 「言わなきゃ分かんないことだってあンだろ」  まあそうだ。僕は仕方なく「わかった」と答えた。けどやっぱり言わないだろうなと思った。  ゴリ男はそれを聞くと面白くなさそうに踵を返した。僕もこれ以上は何も言うこともなかった。ゴリ男は自分の席に向かう途中で急にピタリと足を止めて振り返った。 「仲直りはしたからな!」  僕は驚いた。いまので仲直りって言うのか? 基準は分からなかったけど恥ずかしそうにしているゴリ男を見ていたらなんだかおかしくなってきた。 「おう」  そう答えてやった。  その日真菜は母さんと父さんに喋りっぱなしだった。どうやらゴリ男の弟が教室にやって来たらしい。 「お兄ちゃんは五年生だから教室が遠いでしょ。だから何かあったら隣の教室に来いって」  真菜の隣の教室は二年生のクラスだ。どうやらゴリ男には二年生の弟がいるらしい。真菜はなんだか嬉しそうに何度も繰り返し言っていた。よほど嬉しかったのだろう。そんなことゴリ男はひとことも言ってなかったけど、真菜が嬉しそうにしてるならまあいいか。  それから時々は駄菓子屋でゴリ男軍団と鉢合わせすることもあった。だけど真菜はどうやらゴリ男たちは平気なようで小さい声だけど僕と話すことは止まることはなかった。どうやら真菜の中ではゴリ男は苦手ではないらしい。僕も以前よりはマシに思えたけど、だからといってゴリ男軍団に入りたいとも思わなかった。  けどゴリ男の言っていたことはあながち間違ってなくて、やはりランドセルのまま駄菓子屋に行くのはまわりから見てもあまり快く思われないらしい。裏の家のおばさんが窓越しに何度もこちらを見ていた。何か言ってくるわけじゃなかったけどなんだかあまり気持ちはよくなかった。ちゃんと言ってるからいいんだと自分に言い聞かせてはみたけれど、やっぱり悪いことをしているという後ろめたさは残った。
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