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そろそろクリスマスだという頃、朝からいきなり下駄箱の前でゴリ男に呼び止められた。
「おい、陸。今日の放課後、裏までちょっと来い」
「放課後はすぐに」
「妹なら大丈夫だ。おれの弟がついてる」
なんだその準備万端な感じ。
「裏ってどこ?」
「体育館裏に決まってるだろ」
ゴリ男は自慢げにそう言うとすぐに行ってしまった。そんなの初めて聞いたけど。それにゴリ男は僕の名前を知ってたんだな。そういえばゴリ男ってなんて名前だったっけ……。
僕は強引な約束だとは思いつつ体育館裏に向かった。途中で真菜の教室を覗いたら本当にゴリ男の弟が真菜のそばにいた。ゴリ男そっくりなせいか真菜も馴染んでるようだった。だからだいぶリラックスして体育館裏に急いだ。
「──駄菓子屋がなくなる!?」
ゴリ男の口からは意外な言葉が飛び出したので僕は驚いてその言葉を繰り返した。
「どういうことだよ?」僕は思わず前のめりになってしまった。
まあ、落ち着けよ。そう言ってゴリ男は僕の肩を叩いた。ゴリ男の後ろにはゴリ男軍団が勢揃いして控えていた。
「どうやら万引きがここのところ急に増えているらしくてな。店をやっていくのが難しいらしい」
万引き……あんな店でか?
「このままだと三月末には店を畳もうかなって駄菓子屋のお婆さんがうちのじいちゃんに話してた」
「万引きなんて犯罪だろ? 警察には行ったのか?」
僕がそう聞くとゴリ男は何故か肩をすくめた。
「もし犯人が学生だとしたら警察沙汰にはしたくないってさ。あの店に来るなんて学生しかいないし」
「だからって黙って店をやめるとかおかしいだろ!」僕はつい大きな声を出した。
「だろ? でも婆さんは警察には言いたくない。おれたちはあの店がなくなったら困る。そこでだ」
ゴリ男はわざと言葉を切った。僕は何故かゴリ男を睨みつけていた。ゴリ男のせいじゃないのに。
「私人逮捕しようと思う」
「しじんたいほ?」僕は意外な言葉に目が点になった。
「知らないのか? 動画サイトで有名だろ、私人逮捕系って」
「知らない」
ゴリ男軍団は一斉に呆れたような仕草をした。なんだかバカにされてるみたいに思ったけど、まずはその〈しじんたいほ〉ってヤツの正体のほうが先決だ。
「現行犯なら警察じゃなくたって捕まえていいんだ」
「げんこうはん?」
「悪いことをしてる最中に捕まえるなら警察じゃなくたって出来るってことだ」
「へえ」思わず納得してしまって声が出た。
「捕まえてから警察を呼べばいい。そうしたら調べてくれって警察に言わなくてもいい。悪い奴をそのまま警察に引き渡せばいいだけだからな」
なるほど。そうすれば駄菓子屋のお婆さんは何もしなくていいわけだ。
「それをおれたちがこれから冬休みにかけてやろうってわけよ。どうだ、陸。お前もこいよ」
僕は少し悩んだ。真菜を連れて行くのは気が引けた。けどもうすぐ冬休みだし、冬休みに入れば真菜は家にいればいいだけだ。もし駄菓子屋がなくなったら真菜は悲しむ。また環境が変わってしまったら真菜は余計に話さなくなってしまうかもしれない。僕だって楽しみがなくなる。
「──いいよ、手伝う。その〈しじんたいほ〉ってやつをやってやる」
ゴリラ軍団はそれぞれが手のひらをパチンと合わせてハイタッチを始めた。僕にもやってきたから仕方なく僕は手を合わせた。決してゴリラ軍団に加入するってわけじゃないけど。でも駄菓子屋を守るためなら協力して犯人を捕まえてやる。
万引きは悪いことだ。悪いことをする奴は危険な奴だ。だとすると真菜は一緒に連れて行けない。僕は真菜に父さんと母さんには絶対に内緒ってことで真菜に話した。真菜にはいいこでお留守番するようにと告げた。
「やだ。一緒に行く」
真菜はそう言って譲らなかった。ゴリ男軍団が一緒だと言ったけど真菜は引かなかった。
「飯田くんのお兄ちゃん達なら平気」
そうか? 結構厄介な連中だぞ? どうして奴らが平気なのか。真菜の基準は僕には分からなかった。
危ないことはしないで、必ず僕の言うことはきくことを真菜に約束させた。そして父さんと母さんには絶対に内緒だと念を押した。真菜は真顔で何度も頷いていた。
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