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「犯人が来るとしたら午後とか夕方だと思う。しかもすごく混んでる時間じゃなくてちょっとだけ混んでる時間だろうな」
ゴリ男は真顔で言った。
僕たちは駄菓子屋が見える向かい側の空き地にいた。斜め向かいにはちょうど更地になったところがあった。どうやらもう少ししたら駐車場になるらしい。
今日はゴリ男軍団が勢揃いしていた。モンキーとナスビに加えて襟足だけ長いエリアシと家が理容室のモヒカンだ。よく分からないが理容師のお父さんが『男ならソフトモヒカンだろ』と言って必ずその髪型にされるらしい。エリアシも親がその髪型にこだわっているらしい。僕には親が髪型にこだわるっていうのも不思議な気がした。
「すごく混んでる時間じゃないのはなんでだ?」僕は不思議に思って尋ねた。すごく混んでるほうが盗みやすいのではないだろうか。
「すごく混んでたら盗んでるところを誰かが見てるかもしれないだろ? 逆にガラガラでも誰が盗ったか分かっちまう。だとすると婆さんの前に何人か並んでるけど、そこまで人は多くなくてさっさと外に出られるってのが一番可能性が高い」
「おー」僕もゴリ男軍団も声をあげた。ゴリ男がこんなふうに細かく考えてるなんて驚きだ。まるでテレビの中の探偵みたいだ。
「いつ混むのとか分からないから、外から〈ハリコミ〉したほうがいいかと思った。毎日見張ってれば怪しい奴とか分かるようになるかもしれないし」
なるほど。僕たちはいちいちゴリ男の言うことに頷いていた。ゴリ男はこういうことが好きなのかもしれない。やっぱり難しい言葉を使うと思った。
一日目はずっと外から眺めていた。真菜は時々店の中に行きたがったので仕方なく連れて行った。ゴリ男は「明日は弟連れて来るわ」と言っていた。たぶん真菜の相手をさせるためだと思う。確かに真菜がいたら犯人があらわれた時に動けなくなってしまう。ゴリ男の弟に真菜を任せたほうがいいのかもしれない。ここはゴリ男の好意に甘えておくことにしよう。しばらくするとなんとなく人の流れが分かるようになってきた。それで僕たちは話し合って、少し人がまばらになってきたら店内を見に行くグループを作ろうと決めた。二人一組。怪しい人間がいないように目を光らせる役だ。
「万引きGメンみたいだな」とゴリ男はまた聞きなれない言葉を使っていた。
次の日になるとどんな人が来るのかが分かるようになってきた。僕たちは小学生が多く利用しているのかと思ったが、もっと遅い時間になると中学生や高校生、スーツを着た父さんくらいの人まで店に来ていた。
店に巡回に行ったモヒカンが首を捻りながら帰って来た。
「どうかした?」僕は気になって聞いた。
「いや」
「怪しい奴がいたのか?」ゴリ男が聞いた。いま店内にいるのは学生ばかりだ。
「いや……そうじゃないんだけど」モヒカンは歯切れ悪く答えた。「なんか変だなって」
「変って?」
「うーん。怪しいっていうんじゃなくて。なんて言ったらいいんだろう、間違い探しをやってるみたいな?」
「なんだそりゃ!」ゴリ男は呆れてそう言った。でも僕はその言葉がなんだか気になった。
「何かが間違ってる気がするってことだよね?」
「うーん、たぶん」モヒカンはゴリ男に呆れられたのがショックだったせいか急に元気なく答えた。
それ以上はモヒカンが落ち込んでしまいそうだったので聞かなかったけれど、何が違和感だったのか僕の中ではすごく気になった。きっといつもと違うってことだ。いつもと何が違うんだ? もしそれが見つかれば何かにつながる気がした。
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