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ゆっくり上昇するゴンドラ。入学してもうすぐ一年になる高校が向こうに見える。「眩しいね」夕陽に目を細める彼女の頬がオレンジに染まって、それは泣きたくなるほど綺麗だった。
「……本当に、駄目なの」
ゴンドラが天辺に至る頃、我慢できずに僕は言ってしまう。彼女ははしゃいでいた口を閉ざして、表情を固くした。
「僕は、遠距離でも全然構わないよ」
僕が何と言っても、葉月の返事は変わらないだろう。
その予想通り、彼女は悲しげな目を伏せた。それを見て、やっぱり駄目かと肩を落とす。
「ごめん、佑二」
今日は、明日遠くに引っ越す彼女との最後のデートだった。片道の移動でも丸一日を要する場所に、葉月は引っ越してしまう。それでも僕は彼女と付き合っていたかった。電話やメールだけでもいい、恋人でいられなくなっても、とにかく繋がっていたかった。
だけど葉月はそれを望まなかった。幼い頃から一緒に育った彼女の拒絶に、僕は身を引き裂かれる思いだった。
「佑二には、もっといい人が見つかるよ」
そんな人はいない。僕の人生において、葉月より大切な人は、これからも絶対に登場しない。
僕が女々しい言葉を吐く前に、葉月は言った。
「さよなら」
ゴンドラは、もう地上につく。
「さよなら」
僕も彼女と同じ涙を浮かべながら、同じ言葉を口にした。
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