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 嫌な夢を見た。  昔から何度も繰り返す夢だった。  目を覚まして、自分が普段の部屋にいることに安堵しながら額の寝汗を拭う。そして毎度のことながら、あれを悪夢だと感じてしまう自分が嫌になる。  ぐったりしたまま、枕元のスマホを見た。三月二十五日。僕はまだ、この日を繰り返している。  あと何度繰り返せば、二十五日を抜けられるんだろう。悪夢を見たのだから、これが全て夢だという可能性は限りなく低い、と思う。夢の中で夢を見るという経験を、僕はしたことがない。  正直、約束の場所に行くのが億劫だった。葉月と遊んで別れる繰り返しに、僕は疲れていた。最後に彼女の涙を見なければならない苦しさは、何度経験しても慣れることはないだろう。だけど約束を破るわけにはいかない。今日の葉月にとって、この日は初めての日で、終わりのある一日なんだから。  身体を起こしつつ、なんとかこのループを抜ける方法を考える。  僕以外、何もかもが二十四日の続きだ。彼女や両親が持つ記憶も、スマホの履歴も、テレビのニュースといった世間の動きも、変哲のない三月二十五日。誰も疑問なんて抱かない、平凡な一日。  もともと友人の少ない僕に、この現象を説明して信じてもらえそうな相手は思いつかなかった。いたとしても、葉月と一日を過ごしていたら、連絡する時間もない。そもそも、何故この日が繰り返されているんだろう。その原因は一体何なんだ。  電車の中で「1日 ループ」と検索しても、結果にはSF映画やゲーム、漫画や小説の一覧が出てくるだけで役に立たない。そうこうしているうちに、僕は葉月と再会する。  何度も繰り返すうちに、僕の感動は明らかに薄れていった。彼女の思い詰めた表情や、零れる涙を目にすると、確かに心は揺らぐ。揺らぐどころじゃない、どうにもできない自分が悔しくなるほどもどかしく、それでいて彼女が愛らしくて仕方なくなる。  だけど涙は零れなくなっていった。明日もまた会える。そう思ってしまう僕は、ウソ泣きが出来るほど器用な人間じゃなかった。
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