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つぼのなかには。
それは、どこにでもありそうな壷に見えた。
もう少し正確に言うのであれば、梅干しでも漬けてありそうな、茶色の壷である。さほど重さもなく、女子供でも一応片手で持てるくらいのサイズだ。
ちなみに上には木製の蓋がしてあり、紐でぐるぐるに縛られている。
「どうしたんですか、これ?」
ここはコンガが働いているコンビニの倉庫。白いテーブルの上に壷を置いたのは、我らが甲賀忍者のリーダーであり、咲耶の祖父である岩爺だった。
「これの正体を突き止めるのに協力してほしくてな」
ごほん、とわざとらしく咳払いをしながら彼は言った。ちなみにこの場には、コンガのみならず例の忍者三人娘も来ている。――自分のコンビニは作戦会議場でもなければ女子高校生のたまり場でもないはずなのだが、なんで毎度毎度彼等彼女らはここに集まってきてしまうのか。
一応、店長である自分は忍者の身分を隠しているはず、なのだが。いやほんとに、彼女らがもう忍者であることを隠しもしてない時点でバレるのも時間の問題なのかもしれないが。
「最近、うちの蔵を整頓していたらこの壷が出て来てな。ご覧の通り蓋はがっつり縛られていて開かないから中身もわからない。紐は固くてほどけないし、どうにも普通の紐ではないようで鋏や刀で切るなんてことも叶わんかった」
岩爺は壷を撫でながら言った。
「蔵には、甲賀の里が健在だった頃に集まった各地の宝が眠っておる。と、同時に……かつての長がどっからか趣味で集めたガラクタなんぞもあってな。この壷が、そのどっちなのか皆目見当がつかんのだ」
「どう見ても、ふつーの漬物の壷にしか見えませんがねえ……」
「くんくん、匂いは特にしねえなあ」
にょき、とコンガの脇から顔を出したネムは壷の匂いを嗅ぐ。確かに、漬物ならばもっとすっぱい臭いがしてもおかしくはなさそうだが、今のところそれらしいものはいっさい臭ってこない。
「鑑定士とか、そういう人いないんです?身内に」
シャオランがおずおずと手を挙げて言えば、いや、と岩爺は首を振った。
「一応古美術商の者などにも見てもらったが、よくわからんと言われてそれっきりだ。それに、壷の中に貴重な品が入っている可能性もある。あるいは、この紐に術がかかっていて、何かが封印されているなんてこともあるかもしれん。……というわけで、咲耶」
ずい、と彼が視線を向けたのは可愛い孫娘の咲耶だ。
「この場所を使って構わん。この壷を動画で配信してくれんか?その、ネットにはいろいろな“有識者”がおるんじゃろう?その中には、壷について詳しい者もおるかもしれん。お前の拡散力が頼りだ」
「おおおおおおおおおおおお!ついに、私が堂々と目立っていい時が来たってことだねおじーちゃん!」
それを聞いて、咲耶は嬉しそうに拳を突き上げた。咲耶、やります!とキラキラした笑顔を振りまいている。
なかなか可愛らしい、とコーチの身分であるコンガも思う。思うには思うのだが。
――あの、ここ、自分のコンビニなんですが……?
なんで岩爺が当然のように許可出してるんだろう、と頭が痛い。残念ながら頭領の判断に、コンガが逆らえるはずもないのだが。
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