doll 1 : ジュン

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「コレでよし! と」  ジュンは美加のスマホを少し操作して、ソファーで眠る彼女にチラリと視線を向ける。 「幸せにね、美加……」  そう云って美加のおでこにキスをすると、ジュンは指輪を拾い来た時と同じ荷物を持って部屋から出て行く。  そしてエントランスホールについた時、外でタクシーが停まり中から男性が1人勢いよく飛び出してくる。  開いたエントランスですれ違いざま、男性はチラリとジュンに視線を向けた。  だがジュンは気にも留めず、前方を向いたまま歩き去る。  すれ違ったのは悟だった。  リングの効力が切れた今、ジュンと関わった人々の記憶から彼の存在は消え去っていたのだ。  悟がエレベーターに乗り込むと、閉まったエントランスのドア越しにジュンは彼を振り返る。 「……美加をよろしく」  ジュンは口許に笑みを浮かべながらそう云って歩き出した。 「カッコつけちゃって~」  不意に聞こえた声に、ジュンは足を止めて声のした方を振り返る。  そこには、車にもたれかかるようにして立っている悠生の姿があった。  運転席のウィンドウが開くと、ニヤニヤと笑みを浮かべた1人の男性が現れる。 「ジュンく~ん、睡眠薬とは考えたわね~」 「……見てたのかよ」 「ヤダ~。見えるワケないじゃな~い」 「……どうだか」  そう云ってジュンは指輪を指先で弾いて悠生の方へと飛ばす。
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