カスケード(影山飛鳥シリーズ06)

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第27章 「先生何かわかったそうですね」  境林は影山からの連絡を受けて再び影山の事務所を訪れた。 「境林さん、少しやつれましたか?」 「そう見えますか?」 「少しお痩せにもなったような」 「はい。実は体調不良で病院で点滴を打ってもらっていました」 「大丈夫ですか?」 「はい。きっと心労でしょうね。早紀のこととかあって」 「そうですか」 「いま仕事も結構忙しいので」 「たいへんですね」  そこへ鈴木がコーヒーを四つ持って来た。それで境林は誰かもう一人ここに来るのかと影山に尋ねた。 「三日月さんを呼びました。境林さんがご迷惑でなければ同席してもらっても宜しいですか?」 「はい。構いませんよ」 「プライバシーに関することも出て来ると思いますが」 「刑事さんには色々とお手数をお掛けしたし、プライバシーもとことん知られていますから、今更という気がします」 「わかりました」  その時洋館のらせん階段を上がって来る音が聞こえたので、境林は緊張した表情になった。それは予想通り三日月だった。 「それでは三日月刑事も来られたので、今回の境林さんの調査報告を始めたいと思います。三日月刑事は部外者ではありますが、結婚詐欺の容疑者として溝卸さんを捜査しているという関係から一応お耳に入れておいた方がいいかなと私が判断しました。それでここにお呼びしたわけです。この件については依頼者の境林さんの了解も得られましたのでそれでは今からお話をさせて頂きます」  影山はそう言って軽く頭を下げると静かにしゃべりだした。 「僕は先ず境林さんから依頼があったことで何を調査しなくてはいけないかを考えました」 「すみません。それは僕が先生に何を調べて欲しいのか、それをはっきりお伝えしていなかったからですね」 「それは構わなかったのですが、境林さんがただ溝卸さんの戸籍を持って来られて、それを調べて欲しいと言って来たことが始まりでした」 「はい。なにせ彼女からあの戸籍の束とそれを調べて欲しいというメッセージだけが送られて来たので、そこに何が隠されているのかなど皆目検討がつかなかったからです」 「そこで私が思ったのは、先ず溝卸さんは本当に境林さんに詐欺を働こうとしたかどうかということです。次にこれはこの問題に絡むことかもしれませんが、どうして溝卸さんが境林さんに心中を持ち掛けたのか、そして更にはそれを心変わりして一人で消息を絶ってしまったのかです。私はこれらの理由をあの戸籍から境林さんに調べて欲しいと溝卸さんが頼んだのではないかと思ったのです」 「なるほど」  それは三日月の言葉だった。 「しかし一点疑問が残ります」 「それは何ですか?」  境林が尋ねた。 「それは彼女の真実を何故彼女の言葉で直に境林さんに伝えなかったのかということです」  それには境林は黙って頷いた。 「境林さん、あなたに直接言えなくてもその気持ちを手紙などにしたためればいいことですよね?」 「すると先生、それは何か理由があるんですか?」  鈴木も影山の話に夢中になってそう聞いた。 「恐らく、彼女にも半信半疑のことがあったのだろうと思うんです」  影山は鈴木の質問に答えていたが、他の二人にも話をしていたので言葉は丁寧な言い回しにした。 「溝卸さん本人にも確信が持てなかったことですか?」 「はい。そこでそれを境林さんに調べて欲しいと思ったのではないかと思っています」 「でもそれを待ってからでも行動を起こすのは遅くはなかったのではないですか?」 「それは何に対して遅くないということかい?」 「彼女、生きているんでしょうか?」 「まだ彼女は死んだと決まったわけではないよ」 「はい」  いつの間にか影山と鈴木の会話になっていた。 「彼女が急いだ理由は時間を争うことがあったからだよ」 「それは自分が逮捕されるということですか?」 「それもあったのかもしれない」 「子どもが生まれるということですか?」 「それもあったのかもしれない」 「それ以外というと・・・・・・」 「それが今回の事件の鍵だろうね」  そこでずっと前のめりになっていた鈴木がソファの背にもたれ掛かった。 「これは実に奥深い悪意が隠された事件かもしれないんだよ」 「え?」  それには境林が反応した。 「私たちは何かを見落としている。そういう気がしてならなかったんだ」 「先生、是非聞かせてください」  境林はそう言うと今まで鈴木がしていたように身を乗り出して影山の方を向いた。 「わかりました。でも先ずこれまでわかった事実をまとめながらお話しして行きましょう」 「よろしくお願い致します」
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