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4節 絡みつく朝顔
花子による除霊を初めて見たのは入学式の時だった。その頃の私はまだ幽霊が見え始めたばかりだった。
きっかけは、今でも分からない。中学卒業と同時期になぜか見えるようになったのだ。
幽霊の中には生きている人間と変わらない姿をしている者もいる。
その日、声を掛けてきた幽霊は、ヒトトセの制服を着た女子生徒だった。
『新入生よね、あなた』
私は入学式が行われる体育館への行き方がわからなくて困っていた。
今思えば、彼女はきっと、高校在学中に何らかの理由で亡くなった先輩だったのだろう。だがその時の私は、彼女のことを生きている人間だと信じて疑わなかった。体のどこからも出血していなかったし、四肢の欠損もなかったからだ。
『道に迷っているのなら案内しましょうか』
私は彼女の厚意に甘えて、導かれるままに後ろをついていった。だがいつまで経ってもたどり着く気配がない。当たり前だ。彼女はわざと体育館から私を遠ざけていたのである。
最終的には人気のない場所に連れ込まれた。彼女がそこで何をしようとしたのかは知らない。それを知るよりも先に花子が来たからだ。
『同じ新入生なのですよね。ちょうど良かったのです。一緒に体育館へ行きましょう』
花子は、彼女のことなど眼中にない様子で、私の手を取った。おそらく見えていないフリをしたのだと思う。
対する彼女は、目論見を邪魔されたことに怒り、花子につかみかかった。自殺行為である。
その時の私は、いきなり消えた彼女に呆然とするだけだった。とにもかくにも花子に命を救われたのだ。
それからというもの、花子とは何かと縁があった。
背格好が似ているから、体育の授業で一緒に準備体操を行うことが多かった。席替えでは必ずと言っていいほど席が近かった。クラス替えに至っては三年間同じクラスになった。
私たちは運が良い。信じて疑わなかった偶然が、今では必然のように思える。
「霜月花子という人間は存在しなかったんだね」
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