22人が本棚に入れています
本棚に追加
カウンターの端にメニュースタンドが置かれている。私はそこからメニュー表を取り、ゆっくりと開いた。喫茶店と掲げるだけあって、コーヒーを中心に軽食やケーキなどのメニューが載っている。
それらを目で追っているうちに物珍しい文字が飛び込んできた。
「椿茶……?」
聞いたことがなかった。ホットとアイス、どちらもあるみたいだ。どちらにせよ珍しいと思う。
「ウチの看板メニューなんですよ。店名と同じでしょう?」
私のひとりごとが聞こえていたらしい。ミストレスが調理場から解説してくれた。どうやら椿の葉を乾燥・焙煎させてお茶を淹れるようだ。椿の名所である木春村らしい飲み物だと言える。
また、話を聞いてようやく合点がいった。
なるほど。表の看板に書かれた海柘榴という漢字は「つばき」と読むのか。
「椿茶って、どんな味なんですか?」
「そうですねぇ……ほんのりと甘い、という表現が合うかしら。冷やすと甘さが増すので、おすすめですよ」
「では、冷たい椿茶を一杯、お願いします」
「かしこまりました」
注文を終えて、メニュー表を元の場所へ戻す。
「すみません。店内を撮影してもよろしいでしょうか。ここへ来た思い出をSNSに載せたいんです」
「えす、えぬ、えす……ああ、孫もやっているわ。構いませんよ」
私は後ろを向いてショルダーバッグを開けた。そこからスマートフォンを取り出す。すると、画面には思わぬ文字が表示されていた。
最初のコメントを投稿しよう!