3節 海に柘榴

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 カウンターの端にメニュースタンドが置かれている。私はそこからメニュー表を取り、ゆっくりと開いた。喫茶店と掲げるだけあって、コーヒーを中心に軽食やケーキなどのメニューが載っている。  それらを目で追っているうちに物珍しい文字が飛び込んできた。 「椿茶……?」  聞いたことがなかった。ホットとアイス、どちらもあるみたいだ。どちらにせよ珍しいと思う。 「ウチの看板メニューなんですよ。店名と同じでしょう?」  私のひとりごとが聞こえていたらしい。ミストレスが調理場から解説してくれた。どうやら椿の葉を乾燥・焙煎(ばいせん)させてお茶を()れるようだ。椿の名所である木春村らしい飲み物だと言える。  また、話を聞いてようやく合点がいった。  なるほど。表の看板に書かれた海柘榴という漢字は「つばき」と読むのか。 「椿茶って、どんな味なんですか?」 「そうですねぇ……ほんのりと甘い、という表現が合うかしら。冷やすと甘さが増すので、おすすめですよ」 「では、冷たい椿茶を一杯、お願いします」 「かしこまりました」  注文を終えて、メニュー表を元の場所へ戻す。 「すみません。店内を撮影してもよろしいでしょうか。ここへ来た思い出をSNSに載せたいんです」 「えす、えぬ、えす……ああ、孫もやっているわ。構いませんよ」  私は後ろを向いてショルダーバッグを開けた。そこからスマートフォンを取り出す。すると、画面には思わぬ文字が表示されていた。
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