3節 海に柘榴

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 ほのかな香りが鼻腔(びこう)をくすぐる。食器はどちらもガラス製なのだろう。透明で、中に入っている薄い茶色の液体が、よく映えていた。紅茶みたいな見た目だ。 「いただきます」  私は、ティーカップの取っ手に人差し指、中指、親指を添えて持ち上げた。香りがますます強くなっていくのがわかる。その香りに酔いしれながら、椿茶を口に運んだ。飲み口はすっきりとしていた。そこへ優しい甘味が広がる。  ミストレスの言っていた通りだ。  ティーカップの縁から口を離した私は、思わずほっと息をついた。次いで顔を上げて調理場を見据える。 「おいしいです」  椅子に腰掛けているミストレスに伝わるよう、私は満面の笑みを浮かべた。 「冬になると目でも椿を楽しめるようになりますよ。あら、でもそれならお嬢さんは、どうして木春村に?」  核心を突かれて、一瞬、体が強張った。  この人に都市伝説を話しても良いものか。  実際のところ、朝顔の池と呼ばれる場所がどこにあるのかはわかっていない。事前に調べた情報では正確な位置がつかめなかったのだ。  情報が少なかったり、古かったりして、信頼性のあるものにはたどり着けなかった。だからそれらしいところを手当たり次第に探すつもりだった。  私はティーカップをソーサーに置いた。それから深呼吸をして正直に理由を告げる。 「友人から、願いをかなえてくれる『朝顔の池』があると聞いて、ここへ来ました」
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