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『クロムウェル伯爵令嬢クレア。貴様の犯した罪は死をもって償ってもらう』
『お待ちください。オーウェン様、どうかわたくしの話をお聞きください』
『この期に及んで耳を貸す理由などない。聖女シャルロットを貶めようとした大罪人め!』
――首を落とされる前の最期の光景。それは、婚約者だった男の、侮蔑に満ちた表情だった。
「えっ?」
だからこそクレアは驚いたのだ。
目を覚ますと、そこはよく知った場所。自室のベッドの中だったから。
(生きてる!?)
がばっと上体を起こして室内を見回す。
カーテンも調度品も、記憶と一切違わない。十八年暮らした伯爵家だ。
ぎゅっ、とシーツを握りしめた。
同時に扉がノックされる。
「お嬢さま、おはようございます」
扉の向こうから聞こえてきたのはメイドの声だ。
クレアは寝間着のままベッドから飛び出す。そして扉を開け、はしたない姿だと諫めようとするメイドよりも先に大声で言った。
「今日は何年の何月何日!?」
「えっ? 王国暦二百二十三年、緑の月、二十三日ですが……?」
「ありがとう。支度をするからもう少し時間をちょうだい」
再び扉を閉めて、背中を預けた。
姿見を見る。
栗色の髪も、はちみつ色の瞳も、健在だ。
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