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(本当は会いたくなかったけれど、仕方ありませんわ。それにこの状況ならば周りの注目を集めている。よほどおかしなことにはならないでしょう)
さらにクレアはリアムへも体を向けた。
「リアム様。脚本、楽しみにしていますわね」
得意なはずの笑顔は、上手に作れなかった。
***
「どういうことだ、クレア!」
父親からの叱責にクレアは身を縮こまらせた。
「失礼ですが、仰る意味が分かりません」
「オーウェン殿から聞いたぞ。平民の男と逢瀬を重ねていただと? 勇者を婚約者に持ちながらその不埒な行動、身に余る」
(何もしなければ、一家もろとも廃されてしまうというのに)
クレアは反論しないものの、憤りを感じていた。
一度目の人生でクレアは処刑された。
その直前にオーウェンから告げられていたのは、クロムウェル家の爵位剥奪だったのだ。
「しばらく屋敷から出ることを禁ずる。ほとぼりが冷めた頃、あちらの家へ謝罪に行くぞ。いいな?」
「……かしこまりました」
クレアは大人しく自室へと戻った。
テーブルの上には一冊の本。リアムへ手紙を書くにあたって取り寄せたそれは『勿忘草の初恋』という題名が冠されていた。
「王女様と、パン屋の青年が結ばれる物語でしたわね」
ぱらぱらとめくる。
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