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子どもでも知っているくらい大人気の戯曲だった。数代前の王族で実際にあった話だとまことしやかに囁かれている。
最初に主演を務めた役者たちは結婚して子どもをもうけた。
幾度となく上演されてきたと記憶しているが、いつしか見かけなくなった。
「戯曲くらいは幸せな結末を迎えるべきですわ。現実はそうもいかないのですから」
クレアの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
***
数日後。
(……リアムさんは無事に戯曲を書き上げたかしら)
自室から出ることのないまま、クレアは窓の外をぼんやりと眺めていた。
(たった二回しかお会いしていないというのに、何故でしょう。彼のことばかり考えてしまうのは)
クレアは繰り返し『勿忘草の初恋』を読み返した。
とても美しい物語だ。
「『会いたいという感情とは、恋しているとことの表れだ』」
その一節を、口ずさむ。
(もっと色んな話をしてみたい。戯曲のことも、美味しいもののことも)
オーウェンへの初恋が終わったとき以上に、心は沈んでいた。
窓の外には青空が広がっているというのに。
鳥は、自由に羽ばたいているというのに。
(せっかく死ぬ前に戻れたというのに、情けないですわね)
こん、こん。扉がノックされる。
「……お嬢さま」
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