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馬の上、甲冑に身を包み、マントをなびかせる金髪碧眼の美丈夫。
彼こそがオーウェン・ウォリックだ。
もう一頭の馬には、魔法使いの証であるローブを纏った、赤髪の女性。
穏やかな表情で民衆へ手を振っている。
(……わたしの恋は、ここまで)
オーウェンの姿を目に焼き付けて、クレアは無理やりその場から抜け出した。
大通りから離れてしまえばひと気は減る。
普段は馬車でしか通らない町並みが珍しくて、クレアはきょろきょろと視線を彷徨わせる。
(今日だけは歌劇場も閑古鳥が鳴いているわね)
そして、王都の栄華を形にしたような煉瓦造りの建物の前で立ち止まった。
「そんなに言うなら大衆が求めるような内容の芝居を書いてくるんだな」
「やってやるさ。今に見てろよ!」
(えっ!?)
クレアが驚くのと同時に、黒髪の青年が歌劇場から飛び出してきた。
建物内から声をぶつけてきた人物は知っている。歌劇場の支配人だ。クレアも父の付き添いで言葉を交わしたことがある。
もっさりとした黒髪の青年は支配人を睨みつける。
「三日で仕上げる。あんたが感動のあまり顔面を涙と鼻水まみれにしてしまうような物語をな!」
返事の代わりは、強く扉を閉める音だった。
突然の出来事にクレアが驚いたまま固まっていると、青年がふと視線を向けてきた。
黒曜石のごとき美しい瞳だ。
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