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「すまない。みっともないものを見せてしまったな」
「い、いえ……」
ぎゅっとクレアは被ったままのストールを握り、俯いた。
青年の革靴はぼろぼろだった。ぐぅ、と青年の腹が鳴る。
クレアは思い切り青年を見上げた。
「お腹が空いていらっしゃるのですか?」
もう一度青年の腹が鳴った。その顔が一気に朱く染まる。
「……この数日、まともに食ってない」
「どうして?」
「今のを見ただろう。仕事がなくて、金がないのさ」
そのときクレアは自分でも分からない大胆な行動に出た。
「もしよろしければ、一緒にお食事でもいかがかしら?」
「おれが、あんたと? おれは構わんが、あんたには何のメリットがあるんだ?」
「わたくし、ひとりで飲食店に入ったことがなくて、作法を知りたいのですわ」
それは、一度死んだからこその度胸かもしれない。
***
ふたりが移動した先は、なんてことのない大衆食堂だ。
混みすぎず、空きすぎず。隅の席に案内されたふたりは、青年のおすすめというメニューを幾つか頼んだ。
「おれの名前はリアムという」
まず運ばれてきたぶどうジュースで乾杯した後、ようやく青年が名を名乗る。
「まぁ! もしかして、リアム・マクラレン様ですか? わたくし、歌劇場で初めて観たのが『勿忘草の初恋』でしたの」
「……それはそれは」
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