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お子様軍人ジェケット中佐の、今日はカッパ日和 その5
五
「え? ボクが……いや、ワガハイが食べるの?」
中佐の声は見事に裏返っていた。毒見を命じてきた悪魔術軍団のボスが笑う。大量のワサビ入りと思しき海苔巻きを食べる様に命令してきたのだ。
コレはマズイぞ!
中佐の顔が顔面蒼白。まさか反対に自分が食べさせられる事になろうとは。ガタガタと震える両手でグリーン海苔巻を手に取った中佐を見て、ワガハイは違和感を覚えた。
このグリーン巻、何処かで観た覚えがあるぞ?
そうだ。先月のプロレス興行の控室で、中佐が熱心にDVDプレイヤーにかじりついていた。映像にはグリーン巻の作り方が丁寧に解説されていた……果たして、中佐は何のDVDを観てみるのか? 不審に思った俺様は内緒でタイトルチェックしてみれば……
《コレを食べれば貴方もカッパになれる!》
この緑色じみた異様な海苔巻は、出来損ないのカリフォルニア巻なんかじゃない! 食べたニンゲンをたちどころに河童に化す、禁断の変身料理だったのだ。そもそもカッパとはジャパンに生息すると云われる伝説の妖怪。頭に皿なんかを乗っけて、一見、ひ弱そうにも見える。だが、彼らの力を侮れない。ニンゲンの十倍以上のパワーを出せるとの調査文献もあるぐらいなのだ。
中佐は悪魔術集団の連中に件のグリーン巻を食べさせ、ワサビ発狂を狙っていた訳では無い。サンドウィッチをこよなく信奉する連中の事だ。ごはんモノのカッパ巻など食べたくは無いだろう。しかも、こんなに不気味な緑色したモノならば、なおの事。ならば、料理を差し出してきた者に毒見させるに違いない……。
つまりは、中佐は最初からこのグリーン巻を自ら食べるつもりだったのだ。しかも連中に命令させて堂々と! まさに策士だ。
ジェケット中佐よ。お前という奴は……。
カッパ化すれば、中佐はメチャクチャに強くなるだろう。けれども、上手い話には必ず裏というモノが付いてくる。俺様もカッパ化の話は昔聞いた事がある。一度カッパ化すれば、ニンゲンに戻る確率はほとんどゼロに等しい。これからの人生はカッパとして生きていかなければならないのだ。
俺様は、奴さんの気高い犠牲心に涙した。今、グリーン海苔巻を握る両手が小刻みに震えているのは決して演技ではない。中佐にとって、コレがニンゲンとしての最期の晩餐なのだから……。
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