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お子様軍人ジェケット中佐と巨大金魚ダミアン その1
――ねえ、知ってる? 金魚は大きくなると、伝説の鯉『デラコルテ』になるんだって。
そう語るジェケット中佐は、まだサンタクロースの夢を見る小学三年生だった。
一
俺様の名は、サンチェス。生粋のメキシコ人だ。
メキシカンスタイルのプロレスラーをしている。しかも悪玉ルードのマスクマン。これから語るショートストーリーは、俺様サンチェスが活躍する激闘の物語……。
いや今回は違う。
小学生ばなれした行動力を持ちながらも、その心は意外やピュアそのもの。そんな人物が引き起こしてしまった、大きくも小さな事件……思い起こせば、少しセンチメンタルな気分に浸ってしまう類の話なんだ……。
それは、もうじき夏が終わりを迎えようとする日の事だった。
日の出と共に、俺様はニューヨークのセントラルパークに呼びだされていた。開園間際のパークには、ジョギングするニューヨーカーたちの姿も未だ無い。
ドルン。ドルン。ドッルルン。ドルルルルルルルン!
耳をすませば、不気味な重低音がこだましてくる。俺様はこの音の正体を知っている。姿を現したのは、一台のバイク。新聞配達の兄ちゃんが乗っている様な奴なんかじゃない。もっと遥かにゴツイ、モンスターマシンだ。
「待たせたな」
軍用バイクから降り立ったのは小学生のお子様。カーキ色というか、ウンコ色を思わせるベレー帽を目深に被り、同じ色の軍服を一人前に身にまとっている。左目には皮製の眼帯をはめていた。全くもって子供らしくない奇怪極まる風貌した奴の名は……。
ジェケット中佐。
《ルール無用の鬼団長》と異名を持つ、俺様とトリオを組む仲間の一人。子供ルチャドールだ。
「中佐どうしたんだ? こんな朝早くに呼び出して? 目覚まし時計が暴走でも……」
奴さんの背中にはジャパンが誇る剣豪、ササキコジロウよろしく竹製の棒っ切れが縛り付けてある。よくみれば、釣り竿だ。どうやらパーク内の池で釣りをするらしい。大型バイクを無断駐車すると、スタスタ先に園内へと歩き出していく中佐。向かうは、メトロポリタン美術館近くの広大な貯水池だった。
眠い目をこすりながら、俺様は後に続く。貯水池への道すがら、脇に立てかけられた札に偶然目がいった。
『ここから先は貯水池。釣りは禁止。怪魚に注意!』
注意書きと共に怪獣もどきの魚がペンキでグロテスクに描かれている。
怪魚だあ?
思わず吹き出しそうになる。が、俺様は思い出した。二週間前からニューヨーカー達の間で賑わせているゴシップ記事を。セントラルパークに幻の巨大魚が出現し始めたと云うのだ。
もしかして中佐が釣ろうとしているのは……。
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