お子様軍人ジェケット中佐と巨大金魚ダミアン その3

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お子様軍人ジェケット中佐と巨大金魚ダミアン その3

 三 「ダミアンとは……先月のお祭りで出会った」  お子様軍人ジェケット中佐は遠い目をしながらポツポツと語りだした。  ダミアン?  どうやら中佐が名付けた金魚の名前らしい。  奴さん自らがお祭りの金魚すくいで手に入れた。もちろん、大きさはごく一般的な金魚のそれで、『和金』と呼ばれるありふれた品種の淡水魚。初めて見る、紅い可愛らしい金魚の姿に、中佐はひどく魅了されたらしい。  金魚の飼い方とは?  知識はゼロ。中佐は小学校の図書室に向かった。『金魚』に関わる本を読み漁る。その後、ペットショップに立ち寄り、必要な道具を求めた。大きめの水槽を用意し、砂利を敷き詰め、水草も……そして酸素を送り続けるポンプをセットする事も忘れはしなかった。  中佐にとって、今年の夏休みは金魚、金魚、金魚……たった一匹の金魚に専念する日々が続く。学校から出された自由研究の課題も、金魚にまつわるモノに変更した。母親からアドバイスされたアボガドの種の水耕栽培など既に眼中には無かったのである。   「そして、我輩が選んだ、自由研究のテーマは!」  ーー金魚を成長させて、鯉にする。 「金魚を鯉に?」 「そうだ。金魚を鯉にするのだ。ダミアンを実験体にしてな」 「ちょ、ちょっと待て。金魚と鯉とはな……」  俺様が反論しようとするも、中佐は遮り、 「もちろん、大きさは違う」 「ち、違う! 大きさだけでなくて……」 「成長の度合いを高めてさえすれば……我輩はそこに生物の進化の可能性を見た」  自信たっぷり。そこには一片の迷いも、疑いも、不安も無い。まだ小学三年生のお子様とは思えない、一端の男の声を俺様は聞いた。  ため息が漏れる。  なあ、みんな俺様はどうすれば良い? よりにもよってジェケット中佐が夏休みに選んだ自由研究の課題は、錬金術めいたテーマだった。もしも、大学の卒論に選べば、担当教授に一蹴されてしまうレベルのものだろう。  どうする? 真実を伝えるべきか否か?   奴さんの為を思えば、今此処で科学的真実を、金魚と鯉の生物的な関係についてレクチャーするべきだろう。  しかしだ。  俺様が中佐の自由研究内容を否定してしまえば、奴さんのピュアな心は傷つく。それだけに留まらず、間違いなく逆恨みされるだろう。『サンチェスは我輩の崇高な研究を愚弄した、ひどいニンゲンだ。見損なった!』とか仲間内に言いふらすに決まっている。  そして、一番厄介なのが、奴さんはキレるのだ。  そのキレ方といえば、尋常ではない。地団駄を踏み、ヒステリー全開! 目に映るモノ全てを破壊対象にしてしまう程に。中佐のバーサーカー化を鎮静できるのは、奴の母親、マミーぐらいなものだろう。
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