お子様軍人ジェケット中佐と巨大金魚ダミアン その7

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お子様軍人ジェケット中佐と巨大金魚ダミアン その7

 七  此処、ニューヨークは既に秋。ジェケット中佐の夏休みは終わった。  俺様サンチェスと中佐は、日の出直後のセントラルパークを訪れていた。白い霧がうっすらと掛かった件の貯水池の辺に佇んでいる。聞こえるのは、野鳥の鳴き声と奴さんが投げ込む餌団子の着水音だけ。実に静かで荘厳な朝だった……。 「今日の餌やり、終わったよ」  中佐の声に俺様は黙って頷く。夏休みのあの日、巨大怪魚に食べられた俺様たちは幸運にも水流に押し流される形で、体内から脱出できた。まさか愛するペットに食べられる仕打ちを受けたからには、「さあリベンジだ!」といきり立つかと思いきや、奴さんはダミアン捕獲をあっさりと諦めた。そして、以降は釣竿を持たずに貯水池で餌やりだけをする。もちろん、餌には成長促進剤は含まれていない。  パンパン!  中佐は、両手についた餌の残りを払う様に、両手を叩く。池の水面は静かに揺れた。 「さあ学校に行かなくちゃ」  池に背中を向けるや、中佐は静かに歩きだした。奴さんの後を続こうとした矢先、ゾクリと寒気に襲われる。俺様は黙ったまま池を見つめ続けていると、遠い先の水面が俄かに慌ただしくなる事に気が付いた。刹那、ザバアと大きな水しぶきを上げて、ソレは水面の遥か上まで飛び上がり、その巨大な身体を披露してきた。 「アレは? おい、中佐。アレを見てみろよ」  堪らず俺様は中佐を呼び止める。けれども、既に通路を曲がった奴さんの姿は見えない。  まさかアレは?  一度切りしか遭遇してはいないが、ダミアンに違いない。彼はすっかりセントラルパークの貯水池のヌシと成っていた。そして、俺様はしかと見た。ダミアンの口元には確かに長短の髭が生えていた事を……。  お子様軍人ジェケット中佐と巨大金魚ダミアン 了
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