お子様軍人ジェケット中佐とカラ傘乙女桜子さん その1

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お子様軍人ジェケット中佐とカラ傘乙女桜子さん その1

 ――ねえ、サンチェス。おかしいよ、街中の傘屋を探しても、どこにも相合傘って売っていないんだ。  そう語るジェケット中佐は、恋人を欲するおませな小学三年生だった。  一    俺様の名は、サンチェス。生粋のメキシコ人だ。  メキシカンスタイルのプロレスラーをしている。しかも悪玉ルードのマスクマン。これから語るショートストーリーは、俺様サンチェスが活躍する激闘の物語……。  いや今回は違う。 恋に生き、恋に死せると覚悟を決めた一人の男の、大きくも小さな事件……今思い起こせば、センチメンタルな気分に浸ってしまう類の話だ。  此処ニューヨークは、雨が降りしきる日々が続いていた。  ちょうどオヤツの三時に、俺様はニューヨーク一画の某有名ハンバーガーショップに呼びだされていた。放課後寄り道していると思しき女子高生たちで店内はやたらと騒がしい。独り俺様は窓際のカウンター席に腰掛け、紙コップに注がれた熱いコーヒーを一口飲む。  ドルン。ドルン。ドッルルン。ドルルルルルルルン!  耳をすませば、不気味な重低音がこだましてきた。俺様はこの音の正体を知っている。衆人の注目を浴びながら姿を現したのは、一台のバイク。新聞配達の兄ちゃんが乗っている様なちっぽけな奴じゃない。もっと遥かにゴツイ、モンスターマシンだ。 「待たせたな」  軍用バイクから降り立ったのは小学生のお子様。カーキ色というか、ウンコ色を思わせるベレー帽を目深に被り、同じ色の軍服を一人前に身にまとっている。左目には皮製の眼帯をはめていた。全くもって子供らしくない奇怪極まる風貌した奴の名は……。  ジェケット中佐。  《ルール無用の鬼団長》と異名を持つ、俺様とトリオを組む仲間の一人。子供ルチャドールだ。 「中佐どうしたんだ? ハンバーガーショップになんか呼び出して? 何かお目当てのオモチャでも……」  と言い掛けながら、俺様は気づいた。奴さんの手には傘が握られているではないか! ジェケット中佐はお子様でありながらも、れっきとした軍人。本人曰く『軍人の我輩は、傘はささない!』と以前、啖呵を切っていたことを思い出した。にもかかわらず、奴さんは店内に入っても傘をたたみもせずに頭の上にかざしている。他の客にとっては迷惑この上ない行いだった。 「おい、その傘って……」 「サンチェスよ、その目に焼き付けるが良い」  中佐が握る傘は、小学生指定の黄色い傘ではない。桜の花びらの模様をあしらった、何ともノスタルジックな和傘だった。
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