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お子様軍人ジェケット中佐とカラ傘乙女桜子さん その2
二
「この和傘の名は『カラ傘乙女』と云うのだ」
注文したフライドポテトをムシャムシャ頬張りながら、ジェケット中佐の説明が始まった。此処だけの話、ジャポニズムの雰囲気漂うこの和傘には、隠された効用があるという。
ーー相合傘効果。
雨の日に男女二人がこの傘を一緒に利用すると、なんと不思議なパワーが発動し、その二人は激しい恋中に落ちてしまう……その様な傘が存在するとは、俺様は俄に信じることができなかった。中佐はさもありなんとばかりに、
「今は昔、江戸時代の鬼才『ゲンリュウサイ』が作り出した一品よ」
『ゲンリュウサイ』だと?
これまた初耳だった。『傘とは、ただ雨を凌ぐ道具に非ず』をモットーにする稀代の傘職人は様々な効果が付随した作品を世に出した。その中でもマニアを唸らせる『カラ傘乙女三姉妹』なる究極の和傘があった。その内の一本和傘『楓子』とは、恋のキューピッドの役割を果たす。いかなる男女といえども、『楓子』の力によって無理矢理に恋人の仲にさせられてしまうというのだ。
「このカラ傘乙女でルーシーと相合傘をすれば……」
クフフフ、と中佐は嫌らしい笑みを浮かべている。
ルーシー?
俺様はいつぞや奴さんの授業参観に出席した出来事を思い出した。確か、ルーシーとは中佐が通う小学校のクラスメイト。ブロンドヘアをなびかせ、つぶらな瞳が眩しい美少女だ。クラスのマドンナ的な彼女に中佐は想いを寄せているのだが、いかんせん、中佐の奇行さ故にすっかり彼女から嫌われているらしい。
それでも、中佐は恋の成就を諦めていない。軍の情報網を駆使し、ニューヨーク中を探しまわり、遂にはハーレム街の闇フリマでこの和傘をゲットしたらしい。
「サンチェスよ。次会う時は、我輩はボッチではなくラブラブカップルで現れるだろう。ではサラバだ!」
そう宣言し、ハンバーガーショップを後にする中佐の背中に、何やら不穏な影がつきまとっているのは俺様の目がスマホのやりすぎで疲れている為では無かった……。
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