お子様軍人ジェケット中佐とカラ傘乙女桜子さん その5

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お子様軍人ジェケット中佐とカラ傘乙女桜子さん その5

 五  ジェケット中佐がゲットした『カラ傘乙女三姉妹』。  それは一見、アンティークな和傘に見えながらも、妖怪亡霊の類がとり憑いた禁忌のアイテムだった。しかも、長女『楓子』ならば、害は少なかったものの、中佐が間違えて手に入れたのは次女『桜子』。  あろうことか彼女は相合傘として恋のキューピッド役を果たさずに、自分こそが恋の当事者になりたいと望む困ったチャン。しかも、当の中佐といえば、ルーシーとの恋の成就ばかりが頭の中を占めて、まさか長女と次女とを間違えてゲットしたことすら気づいてはいないのだろう。  ため息が漏れる。なあ、みんな俺様はどうすれば良い? このままでは中佐は恋をしながら生気を吸い取られ、めでたくヘチマたわしに変化してしまう。とにかく仲間の危機をほって置けない。そこで俺様は再び中佐に会うことにした。また今日も嫌な雨が振り続ける。これも『カラ傘乙女』のなせる業なのだろうか? 「中佐、聞いてくれ。今すぐに『桜子』と別れるんだ!」  中佐に会うや否や、開口一番に俺様は伝えた。きょとんとした顔の中佐は、「ふふふふ、サンチェス。もしかして我輩と『桜子』さんのラブラブぶりに嫉妬しているのだな?」  と笑みを浮かべる。相変わらず、奴さんはハンバーガーショップ内でも傘を開いたまま畳もうとはしない。 「ルーシーはどうするんだ? そもそも、お前はルーシーと相合傘をしたかったのだろう?」  俺様は熱弁を振るう。しかしだった。たった数日の間で中佐の精神はかなり侵食されてしまったらしい。「ルーシー? ルーシーって誰だい? う〜ん、居たような居ないような」と愛しのマドンナの存在すら忘れかけている有様。それでも、俺様は諦めなかった。テキサスゴトーから教えてもらった情報を包み隠さず伝える。このままでは中佐の命は危うくなることまで。  ーーヘチマのたわしになるぜ!  このセリフには流石の中佐も言葉を失ったらしい。 「……そうか。分かったよ。サンチェス」  断腸の思いで『カラ傘乙女桜子』を手放すかと思いきや、中佐はハッキリを言いやがった。 「恋に生き、恋に死せるが我輩の本望。最期まで『桜子』さんと付き合うまでよ」
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