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お子様軍人ジェケット中佐とカラ傘乙女桜子さん その8
今日のニューヨークは、快晴だった。最近の雨の日が続いていたことがまるで嘘の様に。
俺様サンチェスは、新装開店したばかりのアイスクリームショップに呼び出されていた。既に相手の中佐はカウンター席で、三段重ねのアイスクリームを舐めながら待っていた。見たところ、すっかり顔色も良い。あやうく妖怪傘に生気を吸い取られ、生けるヘチマのたわしになる寸前だったというのに、本人はケロッとした表情をしていやがる。
ふと俺様は奴さんの座る椅子に視線がいった。傘が立てかけられている。しかも和傘。先日の『桜子』と同じくノスタルジックな和傘だ。ただ傘に彩られた花模様はサクラの花びらではない。それでも俺様は嫌な予感がした。
「おい、中佐。その傘は?」
「ああ、サンチェスよ。気付いたか」
中佐はニヤリと笑う。和傘を携えるや、店内に居るにもかかわらず、バサッと平気で傘を広げてしまう。刹那、傘に描かれた花が一気に咲く。それはジャパンで観たことがある、ツバキの花だった。中佐は得意げに話を始める。
「紹介しよう。吾輩の新しい恋人……『椿子』さんだ。実は、彼女との出会いはな……」
俺様は思い出した。江戸時代の傘職人『ゲンリュウサイ』が作り出した『カラ傘乙女』は三姉妹だったことを。そして今回、中佐が新たに手に入れた和傘とは、残るの三女『椿子』に違いない。ヤレヤレ、奴さんは全然懲りていないらしい。
新たなトラブルに遭遇するだろうジェケット中佐の哀れな姿を頭の中で思い描きながら、俺様は冷たくて甘いアイスクリームを一口ほおばった。
お子様軍人ジェケット中佐とカラ傘乙女桜子さん 了
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