お子様軍人ジェケット中佐と目覚めし伝説のレッドアイ その1

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お子様軍人ジェケット中佐と目覚めし伝説のレッドアイ その1

 ――サンチェスよ、遂に我輩は覚醒したのだ。伝説のレッドアイをな!  眼帯を外したジェケット中佐の左まなこは、すっかり充血しきっていた。  一    俺様の名は、サンチェス。生粋のメキシコ人であり、メキシカンスタイルのプロレスラーをしている。しかも悪玉ルードのマスクマン。これから語るショートストーリーは、俺様サンチェスが活躍する激闘の……。  いや今回は違うんだ。自分に秘められた力を信じた一人の男が起こした、エキセントリックな事件……涙なくしては語れない、センチメンタルな物語。  此処ニューヨークは、もうじき夏を迎えようとしていた。  ある日の晩、一本の電話が俺様のビデオ鑑賞を中断させた。受話器から喚き声が聞こえてくる。仕方なく俺様は、相手の指定先……ニューヨーク街郊外にある寂れたジンジャへと向かった。境内に通じていく石階段に腰を下ろすと、タバコを吸いながら奴さんを待つことにした。  ドルン。ドルン。ドッルルン。ドルルルルルルルン!  真夜中にもかかわらず、不気味な重低音がこだまする。暴走族ご一行の登場か? 否、違う。俺様はこの音の正体を知っている。姿を現したのは、一台のバイク。暴走族の改造バイクよりも遥かにゴツイ、モンスターマシンだった。 「待たせたな」  軍用バイクから降り立ったのは小学生のお子様。カーキ色というか、ウンコ色を思わせるベレー帽を目深に被り、同じ色の軍服を一人前に身にまとっている。左目には皮製の眼帯をはめていた。全くもって子供らしくない奇怪極まる風貌した奴の名は……。  ジェケット中佐。  《ルール無用の鬼団長》と異名を持つ、俺様とトリオを組む仲間の一人。子供ルチャドールだ。 「中佐どうしたんだ? こんな夜中にジンジャなんか? こっそり盆踊りの練習でも……」  言い掛けながら、俺様はハッと気づいた。街路灯に照らされた奴さんの顔色がすこぶる悪い。唇は乾き切り、目の下にはクマができている。ぷっくりしている頬も、すっかり削げ落ちているではないか!  「サンチェスよ。遂にヤツが来る。あの『赤いヤツ』がな!」  これほど怯え、疲労困憊している中佐を目の当たりにしたのは実に久しぶりだ。俺様の知らない処で、ジェケット中佐は窮地に立たされてしまったに違いない。
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